2016年10月18日

オモイ畑 ★ グループホーム第1 佐々木伸也 【平成28年9月号】

 去年の11月にグループホーム第1に移ってすぐ、なぜか目の前にある畑が目に入った。その畑は“荒野”のように荒れ果てていて、肥料袋はそのまま投げ捨ててあり、草は伸び放題、収穫後の畝はそのまま放置されていた。そんな畑を見たときに“これどうするの”と思ったと同時に、すぐに心の中で“あ、俺がやるんだな”とスッと覚悟した感じだった。
 まず冬のうちに構想を練らなくてはと思いながら冬が過ぎていくのに焦った。この冬は暖冬であまり雪がつもらず“これは早めに動ける”と思ったが、自分が特養に居たとき、入居者のKさんが「幸田は寒いところだから」とよく言っていたのを思い出した。Kさんは昔から農業をやってきた人で、よく一緒に畑に出る機会があった。そこでは苗の植え方はもちろんのこと、女の幽霊の話までしてくれた。そのKさんは去年7月に亡くなってしまったが、自分に“まだ早い”と言ってくれるかのように出てきてくれた時もあった。銀河の里に来てから3年、今までもずっと畑仕事に携わってきて“よし、3年やったんだから今度は一人でやってみよう”という思いがあった。

 雪が解けて、グループホーム内で何を植えるかみんなで話していた。いよいよ3月後半からスタートになるが、まずトラクターで耕すところから始まる。トラクターを使うのは初めてで不安だったが、利用者のTさんYさんが見守ってくれて支えられた。おかげで初めての割にはなんとかうまく耕せた。  
これには稲造さん(仮名)の存在を忘れることはできない。トラクターで耕した時は、稲造さんはちょうど入院していて居なかったのだが、その後、帰ってきた稲造さんが亡くなる日の当日の朝に、畑の話をしてくれた。そして「お前がいたら大丈夫だな」と言ってくれた。そのときの稲造さんとその言葉があまりに強烈で忘れられない。
 私は翌日、畑に吸い込まれるように畑に出た。石灰と堆肥まきをTさんYさんとやって耕運機で混ぜて準備完了。その後、堆肥まきの時期に新人の菊池さんが来てTさんと3人で堆肥まきして耕運機もかけた。その時にTさんが水の通路を作りたかったのか畑の周りを掘っていた。菊池さんはぶっきらぼうに「そこはやらなくていいって」と言ったのにTさんは「・・・・」と無言だった。そのやり取りを見ながら新人だなぁと感じたものだった。でもその後、二人の関係は不思議な濃密さがあって、今は菊池さんはTさんにとって託す相手として重要な存在になってきている。

 畑の準備の前から私はポットで育苗をしていた(大根、カブ、カボチャ、とうもろこし)。芽が出て“そろそろ植える時期だ”と思っていると・・・他のスタッフから「え、、、大根とカブ、ポットでやったの?」と言われた。何のことかと思っていると、それらは育苗して苗を植えるのではなく直接畑にまく直播きなんだということだった。利用者のTさんやYさんに相談すると「大丈夫なんだ」と言われたが、植えた苗は全部死んでしまった。自分の不甲斐なさにがっかりしながらも、なんとか気を取り直して直播きをした。芽が出るのがもう気になってしょうがなく、毎日畑が気になる。
 その一方で市販の苗の買い出しにも行った。稲造さんの次に入居になった光雄さん(仮名)と苗を買いに行き「太いの買えば良いんだっけ」と教えてもらった。男二人で苗を買っていると、いろいろと目移りしてしまい、ビック唐辛子の苗が気になって「おもしろそうだ」と買い足した。ある時は、Tさん光雄さんと湯本の方までトマトの苗を買いに出かけたが、他の野菜の苗が気になってなかなか決まらなかったりといろいろあった。

 畑に植えてしまうとあとは待つばかり・・・大根の葉が徐々に大きくなるのを見てワクワクした。雨が降るとYさんと喜んだ。「よがったな、雨降って」「んだー」「昨日から二人して予想してらったもんな」と雨の日の会話が弾んだ。生まれて初めて雨が降って喜んだような気がする。
 まだかまだかとソワソワしてるのは自分だけでなくYさんもで、草が気になり、太陽のガンガン照り付ける日でも草取りしてくれる。そこにYさんは自分の世界を見出したようにも感じるくらいやってくれる。今では 伸「おう、ばあさん、ごはんだ」Y「今いぐ」・・・・伸「ごはんだ〜」Y「は〜い」・・・・伸「ごはんだってば」Y「わかった、せわしねぇごど」などと言い合える関係になっている。畑での会話では、戦争時代のことやYさんの話だったりを教えてくれる場所にもなっている。この畑という場所はすごい力を持っており、亀田さんとTさんのカボチャ・菊池さんと光雄さんのとうもろこし・稲造キュウリなど、それぞれの想いがいっぱい詰まった野菜がある。
 畑に出る人は他にも多くいて、サチさんは本気の草取りをしてくれる。キクさんは畑には出ないがリビングにいる幸恵さんと見守ってくれている。キミさんミコさんは応援部隊で畑をやっている人たちに踊ってくれたりして応援してくれる。そんなこんなで全員巻き込んでの畑になっている。でもその分“重さ”も自分は感じた。失敗して獲れなかったらどうしようという“重さ”があった。ところがなんと、どの野菜も大豊作で、周りの皆に「今年の畑は立派だね」と褒められる結果になった。
 でも育てたのは利用者のみんなだと思う、自分は耕しただけ・・・“何もしてないぞ”と思った。「今年は一人で出来るように」と当初思っていたのだが全くの見当違い。また助けられたけど、皆でやったから「立派な畑」になった。皆の想いが詰まった畑はほんとに重いものがあった。豊作で今すごく安堵している自分がいる。

 畑には野菜がいっぱい育った。でもそれだけではない。そこに込められた関係のストーリーや一人一人の気持ちや想いや出会いもたくさん詰まって育っている。目には見えないものもいろんな事を教えてくれる畑、自分も野菜と同じように、畑で成長できてるんだと思う。失敗も成功もどっちも糧にしながら出会えて、悩んで、想いをめぐらして、そんな場所を作ってくれる利用者に圧倒されながら日々を過ごしてきた。これも暮らしなんだなと思う。利用者の一人一人といろいろ感じながら、これからも畑と利用者に囲まれて暮らしを作っていきたい。

GH1の畑.jpg


posted by あまのがわ通信 at 12:41| Comment(0) | 通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。