2014年03月15日

ピンクのフレーム ★特別養護老人ホーム 川戸道 美紗子【2014年3月号】

 先日、オリオンいちの稼ぎ屋おかあちゃん・桃子さん(仮名)が転んでしまって、その拍子に2年間愛用してきた眼鏡のフレームが壊れてしまった。かなり視力が悪いので次の日、一緒に眼鏡を買いに行った。
 眼鏡屋で、壊れたフレームは修理はできないとのことで、新調することになった。「いくらかかるべ?」と桃子さんはお金のことを気にしている。それでもいざ「これなんかどうですか?」と店員さんに勧められると「派手だなあ〜♪80にもなるばばあにこれは若すぎるべ〜♪」と照れるのだが、新しい眼鏡に気持ちがウキウキしているのが分かった。そんな桃子さんを見て、私もワクワクしてきた。
 桃子さんは見えない目をじーっと凝らしてフレームを探した。どうやら暖色系のフレームが好みのよう。(愛用していた眼鏡はピンクと茶色のフレームだった。それより以前に使っていた老眼鏡は琥珀色。)レンズが合うフレームも限られているので、選ぶのも難しいのだが、桃子さんはピンクのフレームを選んだ。とっても可愛いフレームだった。「ん〜・・・これがいいんでねーべか?」と言いながら桃子さんは鏡の前でフレームをかけ、顔の角度を変えてみたりしている。眼鏡屋さんではなく、ブティックに来ているような感じだった。
 眼鏡ケースもサービスでついているとのことで、サンプルを見ると20種類もあった。桃子さんはまたも、宝石でも選ぶかのように「これも可愛いな」「これも色っこいいなあ〜」とひとつずつ手に取って選んでいた。フレームは可愛らしいピンクのものを選んだので、ケースもオレンジやピンクといった明るいケースを選ぶかと思ったのだが、「うーん。よし、これにするがな!」と桃子さんが選んだのは黒い眼鏡ケースだった。「えっ?」それでいいの?と思ったが、桃子さんは満足そう。
 そしてレンズを入れてもらって完成した新しい眼鏡を受け取り、 桃子さんは黒い眼鏡ケースの中にピンクの眼鏡を入れていた。私は、そのコントラストに普段の桃子さんを感じた。「稼ぐ」「怒る」という結構ダイナミックで忙しい桃子さん。黒色のケースは男らしい(力強い?)方で、ピンクは心の中の、小さな桃色“乙女心”に見えた。そーっとしまいこむ黒いケース。ぱかっと開くと、ちらりとピンクのフレームが覗く。私には、桃子さんがとっても可愛らしく映った。
 これまで私はユニットオリオンでの勤務は少なく、なかなか足を運ばないユニットだったので、桃子さんとは面識はあるが、それほど話をしたことはなかった。田植えや稲刈りの時に相談にのってくれたり、こびる作りに精を出してくれるのだが、ほんの一瞬の関わりしかない人だった。銀河の里のグループホームから移ってきた、かなり個性の強い人で、激しいエピソードがたくさんある。桃子さんを知るスタッフに色んな話を聞くと、以前とは違って、今はずいぶん丸くなったんだなという印象を持っていた。
 そんな桃子さんと1対1で過ごした、今回の眼鏡ショッピングはとても新鮮だった。桃子さんの「乙女」な部分をもう少し覗いてみたいなと感じた。私は春からオリオンに異動になって、桃子さんと過ごすことになる。
桃子さんは、普段は食器洗いや米とぎ、野菜つくりや花を育てるなど、いっぱい稼いでいる。利用者さんやスタッフと激しい口喧嘩から、手が出ることも結構あるという激しい性格だが、一方で、ピンクのメガネのように「乙女」の部分が、きっと隠されている。そんな深いところにある、乙女の思い・安らぎなどの部分に触れてみたい。そんな桃子さんと、向き合い勝負してみたい。
posted by あまのがわ通信 at 00:00| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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