私も今年度は、住み慣れた第1グループホームを離れ、新天地、第2グループホームへ移動となった。入居から1年半担当したKさんに、移動をどう伝えようかとタイミングをみていたが、ついに最終日になった。その日は、送別会。私も送る側に座っていると、花束がKさんより私に突然手渡された。びっくりしたのと嬉しかったのと、複雑な思いで受けとる。Kさんの心境は?
表情は、にこやかだった。バラの花とかすみ草のブーケのような花束を受け取り、二人肩を並べ写真に収まった。そして入浴時、私は伝えられずにいた移動の話を、背中を流しながら伝えた。「そうか」とひとことことあっただけで後は静かに背中を流すだけ。湯船に静かに沈んだ表情はとても穏やかで安心した。「すぐ隣だし、遊びに来てね。」と声を掛けその場を後にした。
さて移動先の食事時間、よそ者の空気で座っている私に、唯一関わって来てくれるHさんがいた。「きれいですね〜」がHさんの切り口だ。「きれいですね」と私も返したが、次の瞬間おかずが一品消えていた。さすがに早い。私は思わず笑ってしまった。
そうこうしていると、またまた「きれいですね〜」とHさん。「きれいですね・・・でもまだ食べてます」と返すと、「わがってら、うるせ、さる、くちやがまし」と悪口が来る。なんか楽しくなってくる。不思議だけどいやじゃない。そうしているとHさんは〈ごつん〉と私の頭や背中を叩いて去っていく。数分後にはまたやってきてくれる。今度は私がおしりをポンと叩いて返した。
スタッフは気にして「こんな難しい人に最初から大丈夫だろうか」といった心配をしてくれているのを感じた。しかし私にすれば、まだ顔見知りでもなく、なじまないところで、誰もが遠巻きにしている寂しさのなかで、「きれいですね」と「うるさい、サル」などと悪口とおべっかでどんどん関わってくれるHさんに歓迎されているような気がしていた。今日は何回“うるさい”と言われるかな?「きれいですね」攻撃になんと言って返そうかなと色々考えたりしている。
キッチンで洗い物をしていると、私のおしりをぽんぽんと2回叩く人がいる。振り返ってみるとHさん。にやりと笑って去っていった。その顔に、やった、つながったと、こころが震えた。Hさんは先ほどおしりを叩いた私に、かたきを伐っていったのだ。まだまだつながれる。ゆっくりとこうしたやりとりの中から、ひとつひとつ物語を紡いでいきたい。物語は今始まったばかりだ。