2013年01月15日

守り神を守る ★特別養護老人ホーム 田村成美【2013年1月号】

 特養のユニットことのミエさん(仮名)は、食べることが大好きで、ユーモアのセンスがあり、時々鋭いドキッとする言葉をくれる。ことの守り神のような存在で、この通信にも度々登場している。ミエさんは「帰りたい」と気持ちが動く日がある。そんな日の最後にはいつも重い言葉をくれる。ミエさんは話さなくても解ってしまうようで、なんでもお見通しかと思うことがある。自分が悩んでいること、克服しなければいけない課題…そんなことを特に敏感に察知する。こちらの心を見通しているかのように、励ます応援の言葉をかけてくれたり、時には強く叱咤激励のハッパをかけられたりする(今まで私も何度も気合いを入れてもらっている。通信先月号の山岡さん記事参照)。
 私がユニットことに異動してきた当初、利用者さん一人ひとりが個性的で興味深いのだが、スタッフ間でうまく気持ちの共有ができず、一緒に感動したりすることができず苦しかった。私はいっぱいいっぱいになると自分を閉ざしてしまう傾向がある。そうなると誰とも繋がることができず、言いたいことも言えず、もどかしさと不安に駆られていった。そんなつらい時期をミエさんに支えられた。チームができていないと、ユニットの雰囲気も悪くなる。そうなると転倒や事故が増える。ミエさんも居室で何度か転ぶことがあった。転倒の度にどうしたら守れるのか話し合い、見守れる位置にスタッフが意識して座ったり、布団に鈴をつけて動きを察知できるようにして様々な対策をしたのだが…それでもミエさんの転倒は繰り返された。私は焦って、なんとかしようとムキになっていた。そんなときミエさんは言葉をくれた。「あのね、あんたいつも一人で一生懸命働いてていいども、みんな一緒に働かねばわがんねんだよ。あなた何か始めるんでしょ?あるような感じのタイプだもん。何かあったら先生でもいいし、心の許せる友達でもいいから話すんだよ」ミエさんの言葉は色んな意味にとれる。ハッとさせられた。私は『一人』ではないし『一人』じゃできないとミエさんが言ってくれたと捉えた。
 そのうち3月の末ころにはチームも雰囲気も変わって、幾分良くなってきた。新年度になって新人の川戸道さんに「ミエさんは転ぶ事があるから、トイレに行く時、起床、就寝時も注意してね。車いすのブレーキも忘れないように」と伝えた。素直で真面目な川戸道さんは、ミエさんが動く度に居室に行った。ある日ミエさんは「あんたたち、なしてそったにいつも早く来るの?」と言った。この言葉をケース記録で読んで私はハッとした。その言葉は私への言葉だった。私は『見守り』ではなく『見張り』をさせてしまったのではないか…。やがてチームが少しづつできてくると『守り』が自然と意識できるようになってきた。いちいち意識して神経質になって右往左往しなくても大丈夫な環境ができつつある。「見張るのと守るのはまるで違うんだよ」とミエさんにまた教えてもらった。
 春に新人の川戸道さんが加わってから、ミエさんは私たちを見守り続けてくれる。育てる人が一人増えたという感じで張り切っている感じだった。二人の『赤ちゃん』をイメージで語ってくれたこともあった。なかなか育たない私に投げやりになったのか「育てるの途中でやめてもいいんでしょう?…長くかかることだからね〜」と脅されたこともあった。
 先月のある日、ミエさんの「帰りたい」想いが高まった日があった。いつものように帰りたい気持ちは自分の中に収めたようで、床についた。しばらくして私が他の利用者のパット交換をしているとき、ミエさんの後ろ姿が目に入った。見ていると、フラ〜ッと傾きかけるミエさん。「危ない!!」と全力ダッシュした。間一髪、何とかミエさんの体を後ろから支えたのだが、不安定な姿勢とミエさんのふくよかな体の重さにたじたじで、私も倒れそうになる。「わあ〜」と叫ぶ。そのとき近くにいた川戸道さんが走ってきて、前から支えてくれて助かった。無事に椅子に座ったミエさんは「あぁ〜〜〜いがった〜!二人いなかったら私どうなってたかわからながった〜!」とお礼を言ってくれた。私は「やっと守れた…!」と思った。何度も防げなかったミエさんの転倒を今回は守れた。しかも一人じゃなく二人で。私が後ろから支え、川戸道さんが前から支えたこの位置関係にも私は納得してグッときた。今までの転倒の苦難がここでようやく実を結んだと感じた。ミエさんは自分の体を張って、私たちに教えてくれたんだと思った。

「まずあなた大きくなって、船になってみんなをまとめなさい。必ずできるから。ここから見てるども、できるよ」
去年ミエさんからもらった言葉。私もこの仕事を始めてまもなく3年目に入る。
そろそろおっきな船に育っていきたい。頑張るぞ!!




posted by あまのがわ通信 at 00:00| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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