2013年01月15日

必死の送迎 ★デイサービス 高橋清子【2013年1月号】

認知症対応型の銀河の里のデイサービスは、他の施設で断られたり、合わなかった方の利用も多いので、普通のデイサービスとはかなり違った緊張感や注意力が求められる。他の施設で掲げてあったりする、利用上の注意として「集団行動にあわせ、他の人に迷惑をかけないこと」等といった上から目線の常識などは全く通用しない。そんな常識が通用するぐらいならデイなど利用する必要がないといった感がある。そんなデイの日常を楽しく盛り上げながら過ごしてもらうコツは、「ダメ」とは一切言わない、“ゆるゆるの雰囲気”をつくり出す、柔らかな人間関係が基本だ。他では暴れたりして断られた方や、デイの利用を頑なに拒否していた方も、安心してなじんでもらえて、楽しみに来てもらえる居場所でありたい。認知症高齢者の在宅を支える一助として役立ちたいと願っている。
デイサービスでは毎日朝の送迎から業務が始まる。迎えに行くと、ご家族の方が準備をして利用者さん本人も待っていてくれる場合が一般的なのだが、なかなか普通にはいかないケースが多々あるのも銀河の里のデイの特徴だ。朝送迎で、車に乗ってもらうまでにかなり気を遣い、うまくその気になってもらうように工夫が必要な場合も少なくない。先日、私はある利用者さんと朝の迎えで、40分の格闘をした。Aさんはすでに2年くらい利用をされているなじんだ方なのだが、このところ寒くなって出かけるのがおっくうになられたのか、布団の中から出ようとしなかった。92歳のそのおばあちゃんは近所に住む親族に食事などお世話になりながら一人暮らしで頑張っている。猫と一緒に住んでいるのだが、ここ半年で足腰の力が弱くなり、散歩中に何度も転んで膝をすりむいたりしている。何度も打撲している為に、膝の皿の下が変形している。Aさんは「こんなになってしまったんですよ!婦長さん」と私にたくさん話をしてくれる。私はAさんが昔お世話になった看護師さんに似ているらしく、私は口腔ケアを担当していることもあってか、Aさんに婦長と呼ばれている。
ある月曜日、その日は大雪の朝だった。自宅に車で迎えに行くと、いつもと違ってカーテンが閉められ部屋は暗かった。部屋に入るとAさんは猫といっしょに熟睡していた。「Aさん、デイのお迎えに伺いましたよ!」と声をかける「ん…、今何時です」「9時です、朝のお迎えに来ましたよ!ゆっくり起きて準備しましょう」と誘った。ところがAさんはこの日、妙に頑なだった。「今朝4時ごろ起きた時、とっても寒くて、グラッと目眩がして、今日は駄目だなと思い、行かない事に決めました」と言う。私は顔色の具合、呼吸の様子、熱の有無などを確認したのだが、体調は悪くはなさそうだ。土曜日の送迎でスタッフの2時間の説得に応じなかったことも頭にあった私は、ここで食い下がらなかったらAさんは段々弱って、出かけられなくなり、寝たきりになるのではないかと感じた。私の元来の性格もあって、ここは何としても起きてもらってデイに連れ出さなければと思った。まず布団から出てもらって着替えをしなければ話にならないと考え「準備のお手伝いをしますよ、ゆっくり座りましょう」と促すのだがAさんは起きる気配が全くない。「今日はだめです、いくら婦長が言ってくれても行きません」と布団にしがみ付く。確かに寒い日だし、布団から出るにはおっくうかも知れない。「外は晴れていて段々暖かくなりますよ、さあ行きましょう、行けます、行けます」と私は掛け布団を剥ごうとするのだが、Aさんはさらに頑なになって「絶対に駄目です、ごはんも2日前から食べてないし、薬も飲んでいないし」と布団にしがみついている。食事も食べ薬も飲んでいる事は息子さんから聞いていたので、私は「今日は起きれる大丈夫」とさらにしつこく誘う。私はもう、馬乗りになって力ずくで布団を剥ごうとするのだが、Aさんも対抗してさらに固く布団にしがみついている。そんな格闘に猫も寝てられなくなって、その辺をうろうろと動き回っている。Aさんは「こんなに寒いので、絶対に無理です」とさらに頑なだ。万策尽きた感じだがあきらめる訳にはいかないとばかり「そんなに寒いなら私が布団に入って暖めますから、入れてください」と言ってみるが「騙されませんよ、そう言って座らせていつの間にか洋服を着せるんでしょう」と受けつけてくれない。あれこれ押し問答が30分も続いたろうか。私は突き詰める感じで「Aさん、土曜日のスタッフとの約束覚えていますか?」「覚えていますよ、その時も寒くて駄目でした」「この次は、行くって約束しましたよね。約束は守りましょう」と言った。私の譲らない態度にあきらめたのか強い口調が効いたのか、約束に観念したのか、その時フッと一瞬Aさんの布団にしがみつく力が弱くなった。私はその隙を逃さなかった。このときとばかり一気に布団を剥いだ。掛け布団がはがれるとAさんは上体をあげて座ってくれたので、そのまま洋服を着てもらった。格闘したおかげか目はパッチリと開いて、顔も体も寝ぼけてはいない。暖かいお茶でも飲んでもらいたいところだったが、水しか無かったので水を飲んでもらい、なんとか立ち上がって外に出て車に乗ってもらうことができた。乗った途端に「暖かい、こんなに暖かいなら早く来ればよかった」と言われた。ホッとしながらも私は心の中で<あたりまえでしょ。40分もエンジンかけっぱなしで暖気してるんだもの暖かいよ>と思った。Aさんは走る車の中で「それにしても婦長さんはしつこいし、ガンコだな、アッハハハ」と笑っていた。
なんとか誘えてホッとしながらも、私は汗びっしょりで、1日のエネルギーを使い果たしたように体の力が抜けそうだった。布団剥がしの格闘は、Aさんが飼っている猫にとってはせっかく気持ちよく寝ていたところ迷惑千万な話だったろうし、「人さらい」の様に見えたかもしれない。運転をしながらその情景を思い返した。車に乗ってからはすっかり落ち着いて機嫌も良いAさんの笑い声に安堵しながら「寝たきりにならないで行ける。またデイで楽しくすごしてもらえる」と救われた気持ちになった。一人暮らしのAさんに限らず、利用者さんそれぞれの思いがあり、その時々の気持ちは動く。今回は私も頑なな強引さを前面に出してしまったが、Aさんとのこれまでの関係に支えられてやれたことだと思う。どうやって説得しようか、どうすれば起きてくれるのか私なりに必死だった。この瞬間さえ乗り超えれば、Aさんはデイで楽しく過ごしてくれるのだという確信もあった。これほど汗をかき、言葉を探り、時間をかけた送迎はめったにない。これは、ある月曜日の大雪の朝に格闘した送迎にまつわるエピソードの一つだ。



posted by あまのがわ通信 at 00:00| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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