2017年01月22日

ステージに上がって ★ グループホーム第2 今野 美稀子 【平成29年1月号】

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*銀心會のライブステージに上がる今野さんと元さん

 元さん(仮名)のことを書こうと思う。ただ、元さんをなんと紹介したらいいのか伝えるのは難しい。かなりの認知症と括っても伝わりようがない。入居当初、夜遅くなっても寝ないし、暴れるし、物は壊すわで「薬の処方をお願いするか」という話も出たほどだった。あまり里ではそういう話にはなることはなく、むしろ薬を減らしてもらうのに苦労することが多いので、元さんはかなりの強者ということになるかもしれない。私はそのとき「元さんと出会ってみたい」と薬の処方に反対した。そのひと言で「そうだよね」ということになり、そのまま元さんは夜も大活躍を続けてきた。夜、ガラス窓をどんどんと叩いて、怖がっているのか怒っているのか、そういうこともしばらく続いた。そのうち、元さんの部屋に誰か来ているようで話し声が聞こえるようになった。「ガラスの向こうにいた人たちが入って来たんだね」と皆で話していると、その人数が段々増えてくるようだった。どのくらい増えたのか定かではないが、増えすぎて元さんもたまらなくなったようで、部屋から出てリビングの畳の部屋に逃げてきてそこでしばらく寝ていた。元さんは会話は普通には成り立たない感じなので、はっきりと話してくれる訳ではないのだが、日々の様子はスタッフみんなで共有していた。数ヶ月で、夜部屋に訪れた人たちは帰ってしまったようだった。その後、元さんは夜昼なくグループホーム内を歩いて至る所に放尿して回るようになった。どういう意味があるんだろうかと見守っていると、昼間玄関から外に出てなにか喋ったり叫んだりしている。スタッフが一様に元気のない感じのGH2にあって、「ただひとり頑張ってるのは元さんだね」と理事長が言うぐらいだ。他のグループホームでは、手に負えないから出てくださいと言われることほぼ間違いないくらいの動きのある元さん。私はそんな元さんがとても好きで気なる存在だ。

 去年の3月、酒井さんが中心になって里内にfeelingainという芸術集団を結成した。その勢いで9月頃、特養の交流ホールで銀心會(酒井さん率いる音楽ユニット)ライブを開催した。私は元さんを誘ってそのライブに出かけたのだが、なんと元さんは大盛り上がりで、観客席で立って踊っていたと思ったら、そのまま舞台に上がってしまった。私は止めるわけにもいかず、戸惑ったのだが、結果は元さんのおかげでライブはさらに盛り上がって大感動の締めくくりになったのだった。普段のグループホームでの元さんとは違って、ちゃんと音楽に乗って観客席の皆を盛り上げているのだから驚く。普段の元さんを知らないお客さんはこの場での元さんを見ても認知症のある人だとはわからなかったにちがいない。そのくらいはまっていたのだった。

 そして先日12月4日、交流ホールで再び銀心會ライブが行われた。feelingainの広がりとして職員とスタッフによる絵画の展示会が開催されたが、それに合わせてのライブだった。私はどうしても元さんと参加したくて予定をしっかり組んでいた。ところがその日・・・私がまさかの大遅刻!! 慌てふためいてグループホームに迎えに行くと、元さん本人は悠々とソファでくつろいでいる。急がせる私に「いい、いい」となかなか立ち上がらない元さん。それでもなんとか誘ってやっと特養に着くと丁度ライブは終了したところだった・・・!ショック!前回あんなに盛り上がったのに・・・と悔やんでも悔やみきれない感じでいた。それなのにショックを受けている私の横で元さんはニコニコと周りの人に挨拶している。こんな時は認知症じゃないみたいに振る舞う元さん。
 事務所に捌けていたライブ後の銀心會のメンバーのところに行くと、「なんだ、今ごろ来たのか」と残念がる雰囲気だった。そのとき音響を担当していた伸也さんが、何を思ったか今日のライブの始まりの曲をいきなりかけて、元さんのためのワンステージをスタートしてくれた。歌い終えて精魂果てていた酒井さんも、その曲の勢いに「おい!やるのかよ」と立ち上がった。それからが凄かった。迎え入れてもらった元さんのステージになった。前回も凄かったが前回の比ではなく元さんは燃えていた。酒井さんと二人でテンション高く飛び跳ねながら交流ホールに出ていく!
 私も一緒にそれに加わって参加、これからが本番とばかりライブが始まった。元さんは手拍子をして踊りながら右へ左へ歩き、客席に向かって手招いて盛り上げ、声を張りあげ、最後にはしっかりと挨拶をして締めてくれた。ステージ上での元さんの盛り上がり具合、会場との一体感、元さんに呼応して盛り上がっていく会場。言葉にするのはかなり難しいがすっっっごく良い空間だった!ライブの終わりに合わせるように到着してしまったのもこのためだったのかも・・・というのはこじつけだろうが、主役は遅れて登場ではないけれど、あの時間に着いたこともよかったかな。
 ライブの最後、ニコニコの笑顔のまま元さんが万歳三唱。一回目は元さんひとりで万歳、二回目からは隣にいた私の手を取ってくれて一緒に。これにはメチャクチャ感動してしまった。本当に一緒にステージに立てたんだな、繋がれたな、元さんも私が舞台に上がってきたと認めてくれたのかな。一度目のときは踊って声を張り上げて盛り上げてくれる元さんの後ろをついていくしかなかった私が、今回は元さんと一緒のステージに立って、元さんと一体になって一緒に舞台を作り上げることができた。これまで、グループホームでの生活でも後ろをついていくことしかできなかった私だが、元さんが「おまえも舞台に上がれ、はじけろ、皆と繋がれ」と励ますだけでなく模範を示して、実際手まで引っ張ってくれた。

 前回の通信でつくばの自然生クラブへ行ったときのことを書いた。自然生のホールで打ち合わせも何もしていないのに、入りたい人が入って各々踊って太鼓をたたいて、ひとつのステージが出来上がったときも感じたが、言葉がなくても繋がれる空間、何かをお互いに感じあう空間、その中でそれぞれが自己表現をして個性であふれているのに、それが違和感なくまとまった心地よい場となる空間。そのような場を作ることができる音楽や踊りの力に感動を覚える。
 それはライブなどのステージ上でもだが、日々の暮らしの中でも感じられる。元さんは毎日鼻歌を歌ったり手拍子をしたりしながら廊下を歩いて回る。座っていても自作の歌を歌ったりしている。歌っているということだけではないけれど、改めて考えて気づくのは、元さんにとっては毎日がライブで毎日ステージに上がっているんだなぁということだ。銀心會ライブのときは元さんに引っ張ってもらって、私もそのステージに上がり一緒の空間で繋がることができたのだが、できれば、日々のステージにも自分から上がって一緒に舞台を作りたいと思う。一人舞台でも折れずに毎日続けてくれている元さんの強さがすごい。その強さに甘えず一緒に頑張って繋がれる場を作っていけたらと思う。
 1月3日、毎年恒例の権現様(神楽)が里に来る前にグループホーム第1、第2のメンバーが全員集まった場で、舞踏家の太田さんが即興で踊ってくれた。その前に一曲お願いしたときは乗ってくれなかった元さんが、太田さんに誘われると一緒に前に出て行って踊ってくれた。他の人達も踊ったり手拍子したり、ウトウトと寝ている人もいたが、そんな人も含めてひとつの場になっている空間がそこにあった。元さんに盛り上げてもらうのではなく、元さんと一緒に、皆と自分も一緒にステージに上がることで繋がっていきたい。私が自らステージに立つことで皆と一層繋がれる場が作れたらいいな。
posted by あまのがわ通信 at 12:00| Comment(0) | 通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする