私が里で甘酒やスープを作り始めたのは、就職してすぐの夏でした。夏バテなどで食が進まなかったり、水分補給に工夫が必要な高齢者のために作ってみてほしいという理事長からの提案がはじまりでした。
甘酒は、飲む点滴と言われるほど栄養価の高い食品です。厨房手作りの甘酒はすべて里産の米麹と餅米を使ったノンアルコールの甘酒です。とろみのあるのど越しと懐かしい味で高齢者のみなさんも気に入ってくれたので、水分が十分に摂れなかったり、甘酒で栄養を摂ってほしい利用者さんのために、各ユニットの冷蔵庫に常備してもらうようになりました。
しかし毎日飲むとなると飽きたり、麹独特の香りや甘さが苦手な人もいる、という声もユニットから上がってきたので、甘酒に別の食材を加えて飲みやすくし、さらに栄養価を高めたスペシャルドリンクを作ることにしました。
まず目をつけたのは高齢者も大好きなバナナです。バナナシェイクを作る要領で牛乳とバナナ、そして砂糖の代わりに甘酒を入れてみるとほどよいとろみと柔らかくなった麹の香りで飲みやすいドリンクができました。甘酒の栄養素にバナナの糖質や食物繊維がプラスされ、栄養価もアップします。ココアを入れると、ココアに含まれるポリフェノールの効果や銅・亜鉛などの栄養素も得られるので、エネルギーだけでなく不足しがちな栄養素を補うことも期待できます。普段、とろみ剤を混ぜて飲み物を摂る利用者さんも、バナナのとろみが効いてそのまま飲むことができ、一番人気のドリンクメニューになりました。
次に、おしるこのイメージから、小豆のあんを選びました。こしあんに甘酒と牛乳、少しの生クリームを加えると、こってりとしたお菓子のような感覚になります。そのほかにリンゴやモモの缶詰、パイナップルの缶詰にヨーグルトを組み合わせて甘酸っぱいドリンクを考えたり、イチゴやブドウなどその季節のものを選んでみたり、スタッフや利用者さんからもアイディアをもらっていろいろなバリエーションを考案しました。
食事後や、また食事が摂れなかった場合でも、デザートやスイーツの感覚で手軽に飲めるドリンクを目指して作りました。地域の人が集まるアップルカフェでは、新たにカボチャやトマトを使った甘酒も作り、試飲をしてもらいながら、レシピの配布もしました。特養やグループホームの利用者さんだけでなく、デイサ―ビスの利用者さんやそのご家族にも甘酒の活用方法を紹介できたことでの広がりを感じました。今後はソフト食を食べている利用者さんの一品として、水分が不足しがちな利用者さんのおやつとして、食事が摂りにくい利用者さんの主食やデザートとして、さらに展開していきたいと思っています。
ポタージュにも取り組みました。ポタージュは一食の食事を完食するのが難しい利用者さんや、利用者さんの負担軽減のために楽にとれる食事を目指して開発を進めてきました。
一番初めはビシソワーズを作りました。ジャガイモでとろみがつき、牛乳と生クリームでカロリーやたんぱく質などが摂れます。もともとある程度のとろみがついているので、とろみ剤や凝固剤を使用しなくても飲むことができることから、ビシソワーズをベースにとろみのついたポタージュの開発に力を入れました。
バターや生クリーム、牛乳などで風味やカロリーを出し、ブロッコリーやカブなど様々な野菜を煮込んで試作しましたが、ジャガイモやサツマイモなどのポタージュに比べると、野菜のみのポタージュはミキサーにかけて裏ごししてもとろみはつきません。カロリーも低いままです。普段の基本の食事から見ればポタージュは汁物に該当します。しかしこの一杯で一度の食事に匹敵するものにするには、十分に食事ができたと言えるだけの栄養素とおいしさが必要でした。そこで思いついたのがごはんもお肉・お魚も入れてしまおう!という発想でした。煮込んでいる野菜スープの中にごはんも入れ、ミキサーにかけて裏ごしすると、ごはん・汁物・副菜で摂る栄養素が一度に摂れるポタージュになりました。ごはんはクセがないので食材の味を邪魔することもなく、ほど良いとろみをつけてくれます。さらに栄養価を高めるために入れたのが肉や魚などの主菜となる食材がエネルギー、たんぱく質などをアップしてくれるだけでなく、さらに旨みがアップしました。
高カロリーポタージュは夏バテや食欲不振の利用者さんを中心に、普段の食事の補助としてユニットの冷凍庫に常備しています。必要な場面にすぐに用意でき、真空パックで冷凍すれば作り置きもできます。利用者さんの要望に応えて、甘いカボチャやサツマイモのポタージュを作ったり、シチューのようにたくさん野菜を使ったクリーミーなポタージュを作ってみました。
徐々に種類も増えてグループホームなどにも常備してもらうようになると、ポタージュでカロリーも補いながら食物繊維も摂りたいという新たな要望がでてきました。これまでは、便秘気味で食物繊維を摂りたい場合には寒天ゼリーなどを食事にプラスしていましたが、今回はポタージュに食物繊維の豊富なゴボウとエノキを入れて作ってみました。高カロリーポタージュでは一杯で一食分の栄養が摂れることを目指してきましたが、もっとポタージュでも様々な要求に応えられるようになるのではと考えました。カロリーを補うだけではなく、その他に付加できる要素が広がれば、ポタージュでの個別対応ができます。例えばたんぱく質に特化したものや、食物繊維に特化したものがそれぞれあれば、その日の利用者さんの体調や食事内容に合わせてポタージュを組み合わせができます。
今では高カロリーポタージュにごはんだけでなくパンを入れたり、甘いポタージュを凍ったままアイスとして食べてもらったりと発想が広がっています。ごはんにかけてリゾットにしたり、甘酒と割ってドリンクにするメニューも生まれています。今後はポタージュの種類を増やすだけでなく栄養機能食品のように何かの栄養素に特化したポタージュを考えていきたいと思っています。利用者さんの食事の可能性を高め、豊富な選択肢を備えるべく、開発をしていきたいと思います。
甘酒、ポタージュに続いて、さらに寒天を使ったドリンクも開発しました。甘酒とポタージュは食欲不振や夏バテ、ソフト食の人向けでしたが、寒天ドリンクは便秘気味だったり体重が増加している利用者さんのために考案しました。寒天はノンカロリーで高血圧の人にもおすすめの食品です。その寒天をノンカロリーの甘味料と少量のジュースでゆるめに作り、水や炭酸水で割るのが寒天ドリンクです。便秘気味の人は水で割ることで寒天の食物繊維と水分で便通改善、体重が気になる人には炭酸水で割ることで満腹感が得られると考えました。
便通改善の効果は人によってでしたが、グループホームではいつも食べているヨーグルトに相乗効果を狙って、寒天ドリンクをかけて食べることもあり、デザートやおやつと一緒に飲めると好評でした。体重増加が気になる利用者さんには食感があるとさらに満腹感が得られると考え、細かく切ったコンニャクを加えたものを、お腹がすいた時に飲んでもらいました。真空パックにした寒天に水や炭酸水を注ぐだけという手軽さと、低カロリーで好きな濃度に調整できるということもあり、特養でも活躍しました。
今まで、現場の利用者さんの状況に沿う形で、甘酒・ポタージュ・ドリンクとアプローチしてきました。普段の食事もとても大切ですが、ごはんがあって味噌汁や主菜、副菜という構成の食事を食べることができなくなってしまう利用者さんもたくさんおられます。生きるための食事として、最後にはその形態が飲み物だけになるという段階にいたる場合もあります。現在は病院処方のエンシュアや栄養補助飲料など企業からさまざまな商品が登場していますが、そういった商品はあくまで栄養の補助であり、味も甘い物が多く、食事としては位置付けできません。
食形態として飲み物を選択される利用者さんにも食事の楽しみや好みなど幅広い選択肢が増えていくようにさまざまな味、栄養価の物を展開しつつ、食感や質感にも着目して栄養補助から抜け出した「食事」としての飲み物を考えていきたいと思っています。飲み物でもなめらかさや硬さで変化がつけられますし、ゼリー状やクリーム状など、まだ試していないたくさんの可能性もあります。飲み物という形態を最後に選択する利用者さんのみならず、ソフト食、刻み食、常食の利用者さんにも選んでいただけるように、味や食感、栄養素を考慮し、食事として楽しい時間を過ごせるような飲み物メニューを増やしていきたいと思います。
また、アップルカフェなどで甘酒やポタージュなどを紹介してきましたが、通所や在宅での介護でも、飲み物としての食事があると助かると思います。そんな場面にも使えるような工夫もしていきたいと思います。
これからも、甘酒・ポタージュ・ドリンクを食事の形態としての選択肢のひとつとして成り立つような料理を開発していきたいと考えています。
posted by あまのがわ通信 at 16:35|
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