2010年05月15日

今月の書「踵」 ★特別養護老人ホーム 山岡睦【2010年5月号】

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力を込めて
踏みしめてみる

その重さを感じながら
立っていることを確かめる

一瞬一瞬
一歩一歩

踏み出す力を蓄える




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特養に雛壇がやってきた! ★特養 中屋なつき【2010年5月号】

 あまのがわ通信にて「特養にも雛壇がほしい」と呼びかけたところ、さっそく寄付してくださるという声が届いた。里の利用者だった伸一さん(仮名)だ。以前から銀河の里の通信を毎回熟読してくださり感想まで伝えてくれる方である。
 申し出をありがたく受け、ご自宅まで品物を受け取りに行く。「家では飾ってあげられないから、見てくれる人がいるところにもらわれるんなら、人形も喜ぶでしょう」とお嫁さん。伸一さんは「飾り方を職員さんに詳しく伝授したい」と、特養に来所することとなる。
 雛人形の入った大きな木箱ふたつ、先に特養にやってきて、強烈なショウノウの香りを放っている…。好奇心でちょっとフタを開けてみたが、包装に使われている新聞紙も「らいおん歯磨き」の小箱も、かなりの年月を思わせる。伸一さんが来るまでは、とてもそれは開けられない迫力を感じてしまう。

 約束の日…、「こーん・にっち・わぁー!」と手を振り振り元気よく玄関をくぐって伸一さん登場!「おーひ・さっし・ぶーり・でっすねぇー! あはははぁー」シルバーカーを押す歩調も軽やかに、生き生きした表情。人形の置いてある交流ホールへ直行の伸一さん。
 ちょうど伸一さんの奥さんのサエさん(仮名)もショートステイ中だったので呼んでくる。「しばらくだったなぁ」と伸一さん。久方ぶりの夫婦ご対面に、「なんだかお二人が御内裏様とお雛様みたいですね」とみんなが言う。すると「こんなこと、してか?!」と言いながらサエさんに寄り添う伸一さん、照れておどけるサエさんの肘鉄が伸一さんの顔面にヒット!
 かくして、ショウノウの匂いムンムンの、賑やかなる雛壇飾りがスタート! すでに伸一さんのテンションは上がりまくり、見物に集まってきた人々に向けて大きな声で張り切っている。「まぁずは、壇を組み立てるんだぁ!」すかさず事務の瀬川さんが、付き添いで来た職員さんと共に木製の壇を組み立て始める。「埃だらけだ、まぁず、雑巾もって来ぉい!」サエさんも手伝って、板の埃を拭いていく。その一方では、いよいよもって人形の木箱が開けられ、ぞくぞくと、出てくる出てくる人形の数々! お雛様と一緒に五月人形や鯉のぼりも入っている。作りの細やかな人形のひとつひとつを、見物に来ていた利用者さんたちに手渡す。五人囃子の笛吹を無言でじっくり見つめるハナさん(仮名)、「それ、じいさん」と右大臣に話しかける弥生さん(仮名)、御内裏様に「あや、ずいぶん立派だね」とトミさん(仮名)…。
 よく見ると「ん? これ、お雛様も五月人形も関係ないんじゃね?」という物もたくさんある。狸やらロボットやら、グリコのオマケみたいなのまである。それが全部、たいそうな年期の入った品々だもんだから、スタッフも一緒になって「すごーい!」「何これー?!」と、まるでタイムカプセルのおもちゃ箱をひっくり返したような騒ぎとなる。役によって刀やら楽器やら持たせる小物も違っているし、お膳やら鏡台やらの嫁入り道具のひとつひとつに、おままごとをやった頃の気分が蘇って、ウキウキした心持ちになる。突然、「わあぁーーーーっ!!」と伸一さんが叫ぶ。テンションの最高潮に達したのか、ぐやぐやづい一団にやきもきしたのか、「いいから、早く出せ! ぜぇーんぶ、出してしまえぇーっ!!」と、顔を真っ赤にして怒鳴った。一瞬、シーン…となるホール。ワイワイ楽しくやってたのが興醒めか…と少し心配になったが、次の瞬間に「はいはい、出しましょう♪」とサエさんの一声でみんな作業再開。そうだね、まずは壇の上に並べよう、でないと伸一さんの気持ちがおさまらない。
 伸一さんの隣に座る。見れば、興奮のあまりにどこかにぶつけたのか、手の甲の皮膚が少し裂けて血が出ている。カットバンを貼りながら話を聞く。「若い職員のみなさんが、来年も再来年も同じように飾ることができるように、きちんと教えなくてはならない。そう思って私は今日ここに来ました。しかし、あっちもこっちも、みなさん勝手にやっていらっしゃる。私はもう帰った方がいいですか?」一喝の後のテンションが、今度はグンと下がって、首までうなだれてしまう伸一さん。いやいや、申し訳なかった、ぜひともこだわりの飾り方というのを伝授していただこう。
 やや幅広の壇飾り、向かって左側がお雛様の嫁入りの一団、右側が武士や金太郎などの五月人形の一団。下の方には花咲爺さんや舌切り雀などの物語人形も混じっている。今までに見たこともない一風変わった雛壇が全貌を見せたのは、作業開始から2時間後。その頃には見物の人たちもユニットへ戻ってしまっていたが、ひと息いれてコーヒーを飲みながら雛壇を眺める。伸一さんサエさん夫婦と、帰り際に立ち寄ったワークステージの女の子たちも一緒に記念撮影。カメラを持参した伸一さんは、途中で戸來くんとカメラマン交代、「人形が見えないなぁ、みんなちょっとかがんで」と構図にもこだわって、自分で撮影しご満悦、最初の笑顔に戻ってくれている。「また来年も、再来年も、ずっと飾ってあげてください。みなさんで楽しんでいただければ、寄付した心も喜びます」と満足気でにこやかに話し、「元気でな」とサエさんに声をかけ、職員さんと一緒に施設へ帰っていった。

 サエさんもショートステイを終えて自宅へ。お嫁さんにさっき撮ったばかりの写真を見せながら、お礼と、飾ったときのあれこれを玄関先で報告していると、奥の部屋からサエさんが仏壇に手を合わせる音が聞こえてくる。「ちょっと上がってって」とお嫁さん。「いつもはあんまり仏壇に向かうこともないんだけど…」と私にささやいて、「お線香やってくれたの? ありがとう、おばあちゃん」とサエさんに声をかける。見ると、先日亡くなったという伸一さんの妹さんの遺影がある。「この人が小さい頃に遊んだお雛様なのよ」とのこと。偶然にもその妹さんにも直接お礼を伝えることができた。
 春を心待ちにし、子供の成長を願う気持ちの込められた、一風変わったお雛様と五月人形。里の新人スタッフの成長祈願もかけて、特養の交流ホールで日々を見守ってくれている。利用者やスタッフはもちろん、訪れるお客さんの目も楽しませてくれている。花見シーズンが終わった頃、またみんなで集まって、大切に片付けようと思う。来年、また飾る頃には、今よりまた一年分の成長と想いを胸にしていることを願って。
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笑顔に癒された誕生日ドライブ ★特養ユニット「こと」 佐々木勝巳【2010年5月号】

 どなたの誕生日も、その人に合った祝い方、喜んでもらえるように特別な一日にしたいといつも思う。4月はミエさん(仮名)の誕生日だった。事前に息子さんと連絡を取り合い、どうやってお祝いするか相談することができた。誕生日の当日は都合が合わなかったが、2〜3日前に面会に来てくださって、一緒に外出し、銀河で昼食を一緒に過ごしてくださった息子さん。息子さんの来里を心待ちにしていたミエさんに喜んでもらえて、こちらもとても嬉しくなった。誕生日当日には、今度はユニットのみんなでお祝いしようと、「ミエさん、何が食べたい? 中華そば?」「寿司もいいねぇ」などと、あれこれ計画を練り、みんなで楽しみに待つ。
 当日、天気も良く、絶好のドライブ日和。朝食後、いつものように居室に戻りベッドに休もうとしたミエさんに、筆談で「今日は寿司を食べに出かけるよ」と伝える。寝ぼけ眼だったミエさんの目がパッチリと開き、「本当に?」とびっくりした様子。すぐに外出用の服に着替え。以前、息子さんがプレゼントしてくれた“とっとき服”を身に纏う。すっごくウキウキしてる感じ!
 仲良しナツさん(仮名)とトミさん(仮名)も誘って、食いしん坊リーダーの小松さんも乗り込み、いざ出発。予定していたよりも多少の遅れはあったものの、本日の第一目的地、北上の「清次郎」に到着。ところが、なんと店はまだ準備中…。そこで俺の爽やか笑顔の交渉の甲斐あって、特別に開店時間より少し早く入店を許可してくれた。
 テーブルに座り、ミエさんとナツさんは「本日のセットメニュー」を注文。目の前にお寿司が届くと、二人は勢いよく食べ始める。真剣そのもので、声をかけても耳に入っていない様子。でも二人とも「おいしい♪」と笑顔だ。一方、食いしん坊だが、すぐに胃もたれするというトミさんは、単品で好きな物を頼み、じっくり味わっている。一同そろって腹を満たし、次なる目的地「展勝地」への道中、車に揺られながらみんな時折ウトウトと目をつむって気持ちよさそう。まだ桜は咲いていないけれど、観光バスがたくさん停まっており、「あら〜、車がいっぱいだねぇ」と驚くナツさん。花見の下見もバッチリ、ウトウト一団を乗せ、裏道を通り、花巻方面へ車を走らせる。ナツさんの自宅の近くを通りかかると、「昔はね、ここら辺は林だったのよぉ」と語ってくれるナツさん。
 銀河に戻る前に、ミエさんの誕生日プレゼントを買うためにイトーヨーカドーへと向かう。事前に買っておいてビックリさせたい気持ちもあったが、ミエさんとなら一緒に選びながら買い物も楽しもうということだった。
 俺とミエさんとで店内をぐるり見てまわる。筆談しながら、「ミエさん、何かいいの、好きなのありますか?」と聞いてみる。すると意外な答え、「私、何もいらない。外に連れてきてくれただけでも最高の贈り物だよ」と! 言ってくれるので、すごく嬉しくなった。…このときは、プレゼントを決められず…(後日、スタッフで選んぶことにした)。
 さぁ、では銀河に帰ろう、と車に乗ろうとすると、ミエさんがビックリ発言!?「家に連れてってくれるんですよね? 帰るんでしょ」と! 思わず「えぇっ?!」と慌てる俺と小松さん。聞けば、ミエさんの胸中では「今日は家に帰れる記念日で、そのお祝いのために寿司を食べたり買い物に行ったりしたんだ」だったのかもしれない。
 「うーん…、どうなる? どうする?」と思いつつミエさんを乗せたまま、こちらもドキドキしながら特養に帰ってきた。「帰りたいモードが継続か?!」と玄関をくぐると、事務所に、ミエさん宛に荷物が届いていた。娘さんからで、ミエさんニッコリ。包みを開けると、服や手紙、孫さん作の絵が入っている! 誕生日ドライブの後での、最高のプレゼントに、今までにない笑顔で喜ぶミエさん。「帰りたいモード」もいつの間にかどこへやら吹っ飛んでいた(ナイスタイミングでした)。寿司も美味かったしドライブも楽しかった、何より利用者さんたちの笑顔に癒される。
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華の月曜日 ★デイサービス 藤井覚子【2010年5月号】

 デイサービスは曜日によって来る人が異なるので、曜日ごとに独特の雰囲気がある。特に月曜日は個性的?な方が多く、動きのある曜日で、私もキュッと気合が入る。「動きがあると大変」と思う気持ちがあるからなのだろう。「今日は何が起こるかな?」とワクワクする気持ちと不安な気持ちと両方持ちながら、送迎から戻ると、ホールはすでに何やら動きが始まっている。バイタル測定に「やめろってば!」と壮一さん(仮名)の大きな声がホールに響く。剛さん(仮名)はいつもの日課で「これやるぞ〜」「風呂まだか〜」と叫ぶと声に対して、サエさん(仮名)が「ベロベロ言ってないでちゃんと話して下さい」と反応する。みんなの大きな声にホール内は大騒ぎの感じになる。剛さんは毎日の日課をこなしているだけなのだがサエさんはそれに対し言って聞かせたくなる。サエさんの勢いにはスタッフも押されぎみで、気分を変えようとサエさんをおやつ作りに誘うが、段取りが悪かったりすると「先にたつ人が分からないから、何をしたらいいかわかりません!」とピシャリと言われてスタッフもたじろいでしまう。活動の方に目を向けたくてもサエさんのアンテナは周囲を全てキャッチし、一つ一つに反応していく。この騒ぎをなんとか治めたくなるが、治めようとすればするほどことが大きくなっていき「うるさい」と厳しい視線がサエさんに向けられる。
 「さてまいったな」と困っていると、勇治さん(仮名)が「ずいぶんとふくしい人だ」とニコッと笑って語る。「うるさい!」と言わずに「ふくしい」(よくしゃべる)という方言と笑顔が場がフワッと和げる。そこには勇治さんらしい周囲を気遣う優しさが含まれている。「話はおもしぇぐ、屁は臭く」と場を笑わせる勇治さん。そのユーモアで、張り詰めたホールの雰囲気が一変する。
 昼食後、いつもはソファで過ごす五郎さん(仮名)が玄関の方を指差し「歩いて行きます」とそのまま外へ出て行く。スタッフが声をかけても頑なで「帰ります」とそのまま歩いて行ってしまう。しばらくスタッフと歩いてもらって車で迎えに行き戻ってくる。すると今度は修さん(仮名)が特養へ行くと帽子をかぶり外へ出てしまう。午後になると帰りたい気持ちが強くなる勇治さんも「さ、息子さ電話してけで、帰るから」と動きはじめる。皆が一斉に動きだすので、「どうしよう・・・」と慌てていると考える暇もなく歩いていってしまう。それぞれ思いがあっての動きなので制止はきかない。
 スタッフが代わり新体制がスタートしたばかりのデイでは、利用者の大きな動きがあるとついその言動に飲み込まれてバタバタしてしまいがちだが、動きがあるからこそ、その人の気持ちが読み取れる。そうした動きに動揺したり、制止ばかりに気をとられずに動きを繊細に見つめて寄り添って行きたい。
 デイホールが騒がしくなっている最中、修さんが立ち上がり玄関に向かった。うるさいのがイヤで一人で歩いていってしまうのかなと見ていると、立ち止まって外の景色を眺めている。「特養にいくの?」と声をかけると「今、いげねべ、ここさいる」とホールの様子を察して、今はスタッフが一緒に行けない状況を分かっていてくれた。私の方が自分の業務中心に修さんを見ていたかもしれないと感じた。
 先日もホールでバタバタと色んな動きがあるなか、サエさんとパン作りをした。ホールを見ながらなので、サエさんのペースに引きずられあたふたした。発酵準備に時間がかかり、膨らまないかなと心配だったが、結果はプフッと今までで一番上手に膨らんだ。サエさんも「あら〜」と嬉しそうな表情で「ぱん、ぱん、ぱ〜ん」と言いながら踊って喜びを表現してくれた。私も嬉しくなり一緒に踊った。一緒に作って、気持ちが通う瞬間は本当に喜びを感じる。
 それぞれの人がそれぞれの世界を持って集まってくるデイサービス。騒がしいのは当たり前。表面の動きの激しさだけに翻弄されず、気持ちの動きを繊細に感じつつ、そうした1人1人の動きや変化を楽しめるような感覚をもって関わっていけたら、もっと鮮やかな賑わいが増し、華の月曜日になっていくにちがいない。
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誕生日おめでとう・・・・二人だけの温泉一泊旅 ★グループホーム第2 北舘貞子【2010年5月号】

 「より子さん(仮名)、今年の誕生会どうする」 4月に69歳を迎えるより子さんに聞いてみた。 「う〜ん、去年は鰻をお腹いっぱい食べて太っちゃったし・・ご馳走食べるだけもつまんない。 フランス料理のフルコースは絶対ダメだって医者に言われたし・・ 温泉がいいな、温泉に浸かってのんびりしたい。貞子ちゃん連れてってよ」
 食事制限があるのだが、食べる事とお出かけが大好きな彼女。いつも「此処の食事は不味い、もっと美味しいもの食べたい」と言っている。食べ過ぎが気にかかるが、目を細くし「行きたい」と期待の笑顔のより子さんと出かけることにした。行き先は鶯宿温泉偕楽苑。

 26日誕生日当日夕方「いってきま〜す」と銀河の里を出発。音楽が好きでディケアでもコーラスをやっているより子さん、車中流れる音楽に合わせてリズムを取りながら歌いながらいい雰囲気。「夜勤明けでしょ。疲れない?」と優しい言葉をかけてくれる。
 途中「まだ、紫波なの」「盛岡だね」「あっ、雫石だぁ、後少しでしょ」とより子さんの気持ちは車より早く温泉に向かっている。「私、鶯宿温泉始めてなの。ご馳走たのしみ フフフ・・」 「えっ、温泉じゃなくそっち? 」と私。「フフ・・だってぇ、今晩の為にお昼ご飯控えたから お腹空いたんだもん」
 一時間程のドライブで宿に着き、まずは食事を取る。メインは「前沢牛のしゃぶしゃぶ」。盛り沢山ではなかったけれど程よくお腹いっぱいで、ヘルシーな感じの食事に大満足。食事後お部屋でくつろぎながら「久しぶり。何年ぶりかなぁ、こんなにのんびりしたの」とポツリと呟くより子さん。
 宿に着いたときから、より子さんの表情は柔らかく穏やかに変わったのを感じていた。出会ってから1年だが、そんな表情を見たことはなかったので驚いた。
 温泉に入った後、布団の上に座りテレビを見ながら、何かを考えているのか、表情は穏やかな笑みを浮かべていた。何を考えているのだろう。「もう吹っ切れたから」と言うものの、今でもより子さんが大切に思っている亡くなった旦那さんのことなのか、昔の思い出なのか・・・そんな彼女に、私は言葉をかける事も出来ずにいた。
 これまでの人生を思い起こしているのかな。そのままかなり長い時間(私はそう感じたのですが)が過ぎたように感じた。しばらくして突然「あぁ・・テレビ面白くない。貞子ちゃんコーヒー飲む? 眠かったら寝ていいよ。」と話しかけてきたより子さんは、面倒見のいい母親の様な暖かな表情だった。「来て良かった。」とその瞬間に感じた。

 翌日、朝風呂に浸かり、「おかずいっぱいだから」とご飯をお代わりしたあと、のんびりと窓の外の景色を眺めながら「あぁ、楽しかった、又どっか連れてって頂戴」と話すより子さん。里が近づくと「帰りたくねぇ、飯は不味いし煩いし! 」と何時ものより子さんに戻る。この旅行で私はより子さんにとって、里のスタッフではなく友達か、子供であったのかも知れないなと感じた。
 この1年、何度もより子さんと買い物やドライブに出かけた。その度に旦那さんや子供さんの話をしてくれた。でも今回の旅行ではそんな話は一言も出なかった。どうしてなのかよく解らないが・・・兎に角、大いに楽しんだ、女二人の温泉旅行だった。(^−^)
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未来への地平 ケアの文化的意味を考える ★施設長 宮澤京子【2010年5月号】

 銀河の里がグループホームとデイサービスを軸に認知症対応型の施設としてスタートして10年目を迎えている。昨年は特養ホームが開設になり、今も立ち上げの渦中にあって苦闘が続いており、銀河の里の新たな局面に立っていると感じさせられる日々だ。
 10年という星霜は、現代においては一昔というレベルをこえて隔世の感さえするのだが、福祉の世界も、制度面では介護保険導入を契機に様々な事業体が華々しく展開するなか、コムスンショックがあり、介護産業のイメージが崩れるなど、まさに激動の日々だった。
 ビジネスや職業としての介護職の人気や評価の浮き沈みは激しいのだが、人類学的な視点からケアという行為を見ると、それは人間を人間たらしめる本質的な要素を内包しており、浮き世の商売や対策の制度ごときに左右されうる事柄でないことが映し出される。
 人間にとって「死とはなにか」という問いは、古代から連綿として人類史上最大のテーマとして常に掲げられ、人々の生の身近にあったはずである。しかし近代に至って自然科学の発達と近代社会の発展のなかで、死は急激に遮蔽され市民から遠ざかり、実感を失ってしまった。死を知らない時代の最先端の文化に我々は生きていると言える。
 近代の医療の成功は多大の恩恵をもたらしはしたものの、死を身近な生活から遠ざけ、実感を失わせた一面もある。医療にゆだねられた死は、医療の「敗北としての死」としてあるだけで、死の儀式と意味を生活と人生から失わせてしまった。
 「死」は我々の現場ではかなり身近なこととしてある。特養ホームが要介護高齢者の「終の棲家」である以上、「ターミナル」ということを視野に入れた‘覚悟’の日常が営まれていることを実感させられる。事実この1年間で、5人の方々とのお別れがあった。我々の現場は「死」とは何なのかを、改めてこの現代社会の中で捉えなおす必要を迫られているように感じる。
 しかし、だからといって「ターミナルケア」というマニュアルに安易に飛びつき、技術論を問う姿勢では、あまりに軽薄で虚しいものしか残らないだろう。また「個」として出会い、共に生きた人との別れの悲しさや辛さを、「死」についての宗教的・文化的な一般論から説明し納得しようとしても、まるで腑に落ちないだろう。
 実際、これまでの「死」に立ちあった経験では、それぞれの死が、いかに個性的で、その人らしい光彩を放つものか、打たれるばかりの豊かで深いものであった。そこには悲しさや辛さを遙かに超えて、「みごとに最後までその人らしくある姿」に圧倒的な敬服をさせられたり、「穏やかな死顔」に癒され、救われる思いにさせられた。「ターミナル」の方の傍らに佇むとき、そこには次元の違う世界が立ち現れ時が漂う。死の床でいろいろな方の名前を呼ばれたり、地名を語られるときなどは、その方のライフサイクルの総仕上げを完遂の作業を感じさせられた。

 死の床では、そこに横たわる「あなた」に心理的に深いところで触れる時間が訪れる。「あなた」との出会い「あなた」から頂いた一言に思いをはせ、共に暮らした思い出の一コマ一コマが味わい深くめぐる。すでに目をつむったままの「あなた」を通じて、私自身の両親や親しい友人の「死」が重ね合わされる。また私自身の死もそこに浮かび上がってくる「私は、どこでどう逝くのか」「死後の世界はどうなってるのか」という永遠の謎に誘われる。巡っているうちに、「あなたの死」が「私の死」とも繋がっていることが露わに感じられる。時空を越えた不思議なやり取りは、私自身の現実の生を貴重で豊かなものとして照射してくる。
 ターミナル期を共にするスタッフは、生者のケアと死者のケアという両側面を含んだ、厳粛な場に立ち合う経験をすることになる。これから2025年をピークとする日本の超高齢社会では、施設に限らず「死」が隣り合わせという状況になるだろう。そのことは、「死」が医療にゆだねられ過ぎて、「死のリアリティ」が覆い隠され、欠落している現代の日本社会にとって意味があるように思えてならない。
 おそらく、「死のリアリティ」を取り戻し、生の豊かさを照らし出すことは今後の大きな人類の課題と言ってもいいだろう。そうした先陣を切り、医療の「敗北としての死」ではなく、生を照射する豊かな死を実現していくのが、特養をはじめとする、現場の使命だと確信する。
 ともあれこの10年、里の現場では、「ケア」を技術論で括ることなく、「あなたと私」という、つながりの中で、人生の最終章に同行し、共に生きる「ものがたり」を綴り続けてきた。
 こうした考えや実践は、あまりに既存の福祉施設とは外れているようで、ともすれば周囲から奇異な目で見られたり、あそこは「シュウキョウ」だとか、「ややこしい」と揶揄されがちだった。しかしこれまで救貧的な措置であった介護が介護保険で社会化されつつある今、ケアに対する様々な見方や新たな考え方が出始めている。そうした書物も次々と出版されており、我々の実践を理論化し跡づける方向に世の中も動き始めている。
 里は先を行きすぎた感もあるが、今後10年とその先の進むべき方向を模索すべく、最近の新しいケア論を連載で取り上げながら論じてみたい。(つづく)  
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こころ開いて ★デイサービス 小田島鮎美【2010年5月号】

 今年の2月から、デイサービスを利用しているメイコさん(仮名)。メイコさんは、一見とっつきにくい感じがするのだが、とてもユーモアのある人で、近頃はいろんな表情を見せてくれる。
 利用当初の頃は、おやつ作りなどしていていも、ひとりで、置いてあるチラシを縦、横揃えて整理したり、チラシをくるくると丸めていたり、またそれらを持ってホールを歩いたりして過ごしていた。メイコさんとつながりたいとスタッフが声をかけても、メイコさんは「何す?!」と怒って、突き返していることが多かった。ばかにされている、とメイコさんは感じるようだった。でも、怒っても次の瞬間には笑っていたりと気持ちの切り替わりが早いのもメイコさんだ。
 一ヶ月が過ぎて、最近はひとりでチラシを整理していることは少なくなり、他利用者さんやスタッフとのかかわりも増えてきた。声をかけると怒ることはあるのだが、それ以上に言葉でもつながれる感じもでてきて、こちらの言葉がメイコさんに届いている感じがする。スタッフの脇山さんが、メイコさんとつながろうと歌を歌うと自然とメイコさんも口ずさんだり、へっちょこ団子作りをそばで見つめ、ちゃっかりつまみ食いしていたり、みんなと風船バレーしたり、一緒にテレビを見たり。スタッフの畠山さんが踊りだすと、メイコさんもだんだんに手足が動いてきて、ふたりで向かい合って、息もぴったりに踊るひとときもあった。踊り終わると、畠山がメイコさんを抱きしめ、メイコさんは少し照れながらも嬉しそうな表情だった。
 環境や人、雰囲気に慣れたこともあるのか、優しくほほえんだり、笑ったり、舌をべっと出しておどけた表情も見せてくれる。歩きながら、「ホッ、ホッ、ホッ、ホ〜ホケキョッ」と言って、笑わせてくれたりもする。ゆっくりとこころを開いてくれているような気がする。これから、どんなメイコさんに出会えるだろう。とても楽しみだ。
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トイレで大笑い ★特養 中屋なつき【2010年5月号】

 ある日、助っ人で“こと”の日勤に入った。
 リビングでみんなまったりとコーヒータイムしていると、「ちょっとおトイレ…」とナツさん(仮名)が席を立った。歩行器を押して歩くナツさんだが、ふらつきや転倒の危険があるため、やはりスタッフが付き添って歩いた方が安心。そこで私が一緒に席を立つと、「あら、一緒に来てくれるの?」とナツさん。居室のトイレまで一緒に行って、「ごめんね、ズボン、下ろしてくれる?」「うん、つかまっててね」とやり取り。無事に便座に座ったのを見届けて、私もその場に腰をおろす。
 すると、「あらぁ、臭いのに付き合わせたら悪いわよ。あなた、ついてなくていいよ」とナツさん。いつもなら用を足す間にふたりでいろいろお話しするところだったけど、リビングの方も気にはなっていたので、「そう? じゃ、またズボン上げるとき手伝うから、終わったらオーイって呼んでね」と声をかけ、一旦その場を離れようとした。
 ところが突然笑い出すナツさん。
 「え? なになに?」
 「だって、おっかしいよぉ」
 「何がおかしいの?」
 「だって、オーイなんて言葉、旦那さんが奥さんに威張って言うときの言葉だよぉ」
 「あぁ、そう?」
 「そうだよ、私、そんなの言えないわよぉ」と、まだ笑っている。
 「そっかぁ…。んで、ナツさんの旦那さんもそうだったの?」
 「あははははぁ〜」
 笑ってばかりでその真相はあかさないナツさんだった。
 しばらくして「すいませーん、お願いしまーす」と、いつもの丁寧な奥様言葉でスタッフを呼ぶ。早速駆けつけて「ナツさん、オーイって言わなかったね」「言わないよぉ」と、ふたりで笑いながら身支度。

 リビングへ戻って会話。
 「旦那さんはナツさんのこと、なんて呼んでたの?」
 「えぇ? 忘れたよ〜」
 「オイッ、セツ! とかって?」
 「あはははぁ〜、威張ってな?」
 「それとも、おせっちゃん♪ とかって?!」
 「やだぁ、まさかぁ! あはは〜」
 その日、何度かトイレに同行し、その度に「オーイって呼んでね」「言えないよぉ」を何度か繰り返す。それがなんだか楽しくて、遊んでいるような感覚でやりとりをしていた。そして夕方のこと、トイレらかナツさんの声が聞こえた。
 「オォーイ!」
 しかもわざと声色を変えて、低いドスの利いたような声で呼んでいる! 動いたなナツさんと思いながら嬉しくなって「はい、は〜い!」と駆けつける私。トイレでふたり顔を見合わせて、ただただ可笑しくて、いつまでも大笑いだった。
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