2009年12月15日

今月の書「種」 ★特別養護老人ホーム 山岡睦【2009年12月号】

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晴れの日ばかりでなく

雨の日も風の日もあるから育つ

思いを込めて

時を待ち 祈り続ける

諦めずにただひたすら

いつか花が咲き 大切な何かが実ると信じて


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第一回里の音楽祭を終えて ★デイサービス 藤井覚子【2008年12月号】

 里の音楽祭のメイン、ジャズコンサートの担当になり、私にとっては初めて経験の連続で 、音楽祭を通して人・歌・音全てが新鮮で心に残った。特にジャズミュージシャンとの出会いは、私にとって異次元で非現実の世界に引き込まれる感覚で、刺激的 だった。
 音楽祭前日、ドキドキしながらミュージシャンの荒井さんと板倉さんを、新花巻駅で出迎え 、駅前広場でちょうど獅子踊りが披露されていたので足を止めて見物した。そのうち板倉さんの姿が見えなくなったので、周りを見回してみると、獅子踊りの後ろに座っていた。後 から「なんでも後ろから見るとおもしろいものなんですよ」と言われたのに妙に納得してしま った。芸術を追求してきた65歳の行動と言葉はさすがに深いと感じた。
 視点を変えることで、新しい発見があるということは芸術の面だけでなく、人間関係においても当てはまることだと思う。特に対人間相手の福祉の現場では、本当はマニュアルや型どおりな考えだけでは通用するはず はない。障害や問題点ばかり見てはその人の全体性は失われ、その人らしさも感じることはできないはずで、現場ではこちらがいかに多様な視点を持てるかが問われ る。
 今回のジャズコンサートのイベントの企画運営は私にとって、いろんな意味で自分への挑戦だった。特にコンサートでの司会では、極度の緊張で、最初の挨拶をしたとたん頭が真っ白になり、その状況に自分で驚いてしま った。司会進行も決められた言葉を棒読みでつなぐしかない私にひきかえ、逆にステージでは、自分を自由に表現していく荒井さんの姿。まさにフリーインプロビゼーションのライブで、言葉ではなく声で、複雑な感情や、色彩までを表現しているかのようで、その豊かな表現力に関心させられた。
 アーティストは音楽を通して表現をしていく。自分を表現している人というのはこんなにも輝いて見え、人を魅了する力があるのかと 驚きを隠す事ができなかった。板倉さんの繊細なピアノの音色と、林さんの優雅なベース音、その空間全体が自由で心地よく感じられた。2部ではトークも交えて荒井さんがお客さんと一緒に音楽を作ったのですが、その場で共に音楽を作っていく感覚は新鮮で不思議で楽しく感じた。
 コンサート後の打ち上げでも、ミュージシャンの生態をうかがえるような話や、それぞれの音楽の歴史の話などを聞くことができ、私にとっては、異界の世界の人たちとの出会いで、衝撃的で、今の自分とこれからの自分を確認し考える機会ともなり、貴重な経験とな なった。
 音楽祭の午前中は雨模様のあいにくの天候にも関わらず、昨年より多くの来場者があり、地域の方もたくさん来ていただき、里の祭りが地域に根差し始めていることを感じた。来年度から小規模特養も始ま る。里の音楽祭は地域の交流と、音楽や芸術の発信の場として展開していければと考えている。初回の音楽祭だったが、来年度も何か新しいものに挑戦し、来場される方に楽しみにしていただけるよう発展させていきたいと思 う。
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一平さんの存在 ★デイサービス 小田島鮎美【2009年11月号】

 デイサービスを長い間週1回利用している一平さん(仮名)。私は、一平さんにとても緊張する。話しかける時も言葉を選びながら、聞き取りやすいようにはっきり話そうと意識して、あいさつはしっかりと…と心のなかで覚悟を決めて(?)一平さんのもとへ行く。介助の時はどこかぎこちない動作で、かしこまってしまう自分が居る。でも、私のこの緊張は、良い悪いではなく、一平さんの存在によって私がそうなるんだと気づいたら、なんだかすごいことなんじゃないか!?と最近感じるようになった。
 一平さんとの関わりで一番緊張する場面は“お風呂”。
 一平さんは、1番風呂にしか入らないというこだわりがある。私はそれを意識せず他の利用者さんを先にお風呂に誘ってしまい、一平さんを怒らせてしまったことがあった。将棋の真剣勝負をしていたので、お風呂に誘うのをためらったのと、入れる方達から入ってもらいたいと思い、一平さんのこだわりを尊重しなかった。こちらの事情を伝えるのは怖かったが、正直に話すと一平さんは、「風呂なんかどうでもいい。帰る。」といきなり上着を着て将棋板をかばんにしまい込み怒って帰ろうとする。
 私も他のスタッフも謝るのだが許してくれず、一平さん自身も“帰る”と言ってしまって引けない感じになり、もう互いに苦しくなってしまった。少し時間をおいて藤井さんが一平さんにお風呂のことには触れずに話しかけると「将棋をしていると親の死に目にもあえない」という話をしてくれた。将棋の途中でもお風呂の時は話しかけていいからと言っているような言葉だった。結局そのときは午後の1番風呂で納得してくれた。
 私はその後余計に緊張して、一平さんの入浴にはぎくしゃくしていた。あまり介助をしすぎてもいけないと、隣で遠慮がちに介助をしていると「見てないで、手伝うんだ」と言われ、頑張って介助すると「俺はそんなこと、されたことがない」と言われ、いったいどうしたらいいんだろう…、とモヤモヤしてわからなくなるのだった。
 自分の緊張を消し去りたくて、ありのままの気持ちをミーティングで話したら「一平さんっていう存在が、鮎美さんをそうさせるのかもね。でも、それってすごいよね。」と言われて驚いた。確かに居るだけで、私に緊張感を与えるってすごい!私は、一平さんの存在の大きさを感じていたんだ。一平さんという一人の人間に、私という人間が出会って、かかわりあって、生まれるものがあるのかもしれない。そう気がつくと肩の力がすっと抜けたてきた。
 翌日、一平さんはいくらかめまいがすると言いながらも入浴したいとのことで、看護師に相談し無理のない範囲で入浴することになった。あいかわらず緊張の私だったが、着替えの介助をし、浴室で背中を流し、湯船に入った。すると「ここに来て、どれくらいになる?」と一平さんが聞いてくれて「7ヶ月くらいになります」と答えた。それから以前2時間もお風呂に入るおばあちゃんが居たんだなどと話してくれる。
 お風呂から上がり、着替えをしていると、一平さんが突然、目を閉じて、口をパカッと開け、顔を左右に動かし始めた。めまいするって話していたし、具合悪くなったのかな?!とびっくりしていると、にやりと笑うので(冗談だよ)、私も思わず笑っていた。こんなやりとりは初めてだった。
 ホールへ戻って定席の座布団に座ると、近くのスタッフを手招きするので、なんだろう?と思っていると、私を指差し、「大人になった」と言う。褒めてるんだとなんだか嬉しくなり、涙が出てきた。直接言わないところが、一平さんらしい。
 最近、担当者会議で、一平さんは他のデイサービスではお風呂はいつも最後の方ですよなどと聞いてスタッフはみんな驚いたが、私に異常な緊張をもたらす一平さんの存在に感謝しながら、これからは私らしく一平さんを一番風呂に誘ってみたい。
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第四回 運営推進委員会を終えて ★【2009年12月号】

 地域密着サービス事業所「銀河の里」では、2ヶ月に一度、利用者の家族さん、市役所の方、第三者委員の方、利用者、スタッフが集まって、情報交換や里の様子などを伝え合う会議を開催しています。
 11月26日に、里の交流ホールで今年第四回目の推進会議を開催しました。会長をはじめ、委員の方の出席も多く、利用者、スタッフも、特養、デイサービス、グループホーム1・2から各々出席して、総勢26人も集まりました。今回の会議では、音楽祭の様子、お歳暮商品の紹介と試食会、そして、グループホームの外部評価事業を終えての感想という内容でした。
 いつも会の始まりは、季節に合った唱歌やなつメロを皆で歌い、緊張している場を和らげます。畑でのさつまいもの収穫を終えたところだったので、やき芋をイメージして「たき火」を歌いました。
 会議での自己紹介では、「わたしはノーテンファイアー大学を優秀な成績で卒業した石鳥谷生まれの祥子(仮名)と申します」と深々と頭を下げ、皆を大爆笑させたり、普段あまり話しない人がどんどん話したり、社交ということもあっていろんな表情を見ることができて新鮮な感じもします。
 今後も家族さんの声や利用者の生の声等々を聞かせてもらえる場、いろんな方との関係をつくる場、交流の機会として開催していきたいと思っています。
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今月の一句 『贈りもの』 ★グループホーム第2 鈴木美貴子【2009年12月号】

誕生日 あなたに贈る 紙芝居  あなたの部屋で 私の声で 

おめでとう 共に過ごせる この時間 昔話が こころにしみる

いい顔で たたずむふたり かいまみて 幸せ気分 わたしも浸る
 

 コラさん(仮名)は人がたくさん集まっての誕生会は嫌だと話していた。こじんまりした感じが好きなよう・・・でも誕生日は大事にしている。去年は紅白もちをつくり、なにか記念にとスカーフと写真カードを贈った。みんなが集まるリビングではなく居室でのお祝いをした。さて、今年はどんな誕生日にしようかな・・・と考えた。たまたま今年はコラさんの誕生日とイベントが重なり、誕生会をその日にはできないな・・・と思っていた。でも、私は誕生日のその日におめでとうを言いたい。コラさんは目が見えにくいから写真カードはいらないというが、写真の中のコラさんも表情に味があって私の好みで残しておきたいということもあり、また、コラさんの家族さんたちが来たときに様子を伝えるのに写真を見てもらいたいというのもあり、今年も写真カードをつくった。居室で休んでいるコラさんに「誕生日おめでとう!」と持っていくと、予想通り「みえない」と一言。でも「いい顔してるよ」と言うとカードに目を向けてくれる。
 誕生会はできなかったが、この日の夜は、イベントに参加し、誕生日を満喫したように見えた。数日後、デイサービスのスタッフが「コラさん起きてるかな。」「コラさんの誕生日祝ってなかったから」と夕食後GH2に来てくれた。「コラさんに紙芝居聞かせようと思って」とのこと。コラさんは目が見えにくいから、紙芝居の絵は見えないけど・・・でも耳はいいから話きくのはいいよな・・・と思う私。少ししてから様子見に行くと、コラさんは紙芝居に耳を傾けていた。スタッフも楽しそうな表情で、コラさんの表情もやんわりとしていて、いいな〜って思った。誕生日、誕生会とかではなく、スタッフの気持ちと紙芝居という誕生日の贈り物。形に残る物ではないけれども、形ではなく思いが贈られたように感じた。紙芝居を真ん中にしている二人をみて、見ている私がうれしくなった。相手を思う自分の気持ちを届けたらいいんだなって、それがどんな形なのかは・・・それぞれの形なんだな。
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新たな挑戦<中編> ★ワークステージ 日向菜採【2009年12月号】

 11月上旬から開催されている障がい者芸術文化祭に絵を出展することになった昌子さん(仮名)。ハードスケジュールの中で黙々と絵を描きあげ、達成感に満ち溢れていた彼女は、また新たな挑戦にでた。
 金曜日に絵を描き上げ、週明け月曜日。昌子さんと私のふたりでふれあいランドに絵の搬入に向かう。会場に到着すると自分の作品を大事そうに抱えて受付までいく。初めての場面や人に過度に緊張するのでどうなるか心配していたが、意外や、はにかみながら笑顔で受付で絵を渡した。帰りの車中、絵を書き終えた表情には、自分の手で搬入したという安堵感もみられ、その雰囲気に私も一緒につつまれて幸せな気持ちにさせられた。
 途中、突然昌子さんが「最近、人のこと怖くなくなってきたんだよね。・・・たぶんだけど」と話しはじめる。今までは「人が怖いから・・・」と話すどころか、人に近づくこともできなかった昌子さんのこの言葉に驚きながら嬉しさでいっぱいになった。朝方私にくれた手紙を「早く読んで」と「手紙、手紙」と繰り返すので。「仕方ないな・・・」と途中で車をとめて手紙を読む。そこには今までの昌子さんとは思えない変化の様子が感じられた。これまでは消極的で「私はこんなだからダメなんだ」というような悲観的な手紙ばかりだった。けれど今回の手紙には「今度あそびにいきませんか。大好きです。」と書かれていて、そのストレートな表現と昌子さんの成長を感じて、私は涙が出てきた。そんな私の様子を見ながら、「あれ?なんて書いたっけな・・・あっあれ書いたんだ!あのことも書いたな!」と横でニコニコしながら喋っている。照れ隠しの独り言だったと思うが、それも嬉しかった。

 昌子さんは私の目の前ですごい勢いで成長していく。絵を提出したあとも「今度いっしょに水族館にいきませんか」「いつだったら都合いいですか」「こういうの興味ありますか」「どこに迎えにいけばいいですか」と矢継ぎ早に私を遊びに誘ってくれる。以前と違って、他人を介さずとも自分から話しかけてくるし、自分で決めてくる積極性がある。スタッフの千葉さんと私が他の利用者と遊んでいるのを目撃し、嫉妬とうらやましさなど複雑な感情を織り交ぜた言葉で私たちを水族館に誘ってくれた。
 11月中旬、昌子さんの計画した水族館への外出が実現した。3人で向かった先は宮城県の松島水族館。車中、わがままぶりを冗談っぽく笑わせてくれる昌子さん。それに対して、勢いのあるツッコミをいれる千葉さん。ジブリの曲にあわせて3人で歌った。昌子さんは、こんなやりとりを充分楽しんでいたし、「女同士で騒ぐ」という今まで味わったことのない感覚にウキウキしていたようにも思えた。途中、高速道路での運転に少々酔いながらも、サービスエリアで千葉さんと私にジュースを買ってくれるなど、仕事場では見られない一面も見せてくれた。(続く)
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剛さんの日課 ★デイサービス 藤井覚子【2009年12月号】

 デイサービスに毎日通っている剛さん(仮名)には日課がある。剛さんは一日の流れがしっかりと頭に入っており、中でも入浴の順番や、身体の洗い方、食事では箸の色等にこだわりがある。何より日課をはずさないように過ごすことにこだわっている。ところがその日課が最近微妙に変化してきている。好奇心旺盛な人なので、毎日決まった流れで過ごすことに満足している部分もあれば、決まった流れに退屈して、ちょっとずつ日課を変えて楽しんでいるようにも見える。
 自分で今すべき事を決め、剛さんは休む暇もなくどんどんとスケジュールをこなしていく。送迎で到着すると、コップに水が入っていることを確認し、「早く測ってけで〜」といそいそとバイタルチェックを終わらせる。その後はトイレ。トイレからは「1,2、3、4・・・・」と大きい声が聞こえる。初めは何を数えているのかと不思議だったが、タイルの数を数えているらしいことが分かった。以前左官屋だったという話を聞いて納得。
 トイレから出てくると、ジェンガゲームやトランプ、かるたをして過ごすのが日課として決まっている。利用当初は一人で遊ぶだけで満足していたが、1年程経った今、ゲームをしていると「やってみるから見でけでじゃ〜おめもいっしょにやれ」とスタッフや他の利用者を誘ってみたりと、人との関わりを求めてくるようになった。ゲームが終わると今度は、早足に渡り廊下を通って隣のグループホームを巡って歩く。「来てみたぞ〜」とズンズンと全部の部屋を開けて回る。本人にとってはグループホームの中を歩くのは運動のようで、一日に何度か繰り返す。声も足音も大きいので時には「うるさい!」と利用者から咎められることもあるが、気も止めず剛さんはマイペースを崩さない。
 グループの運動から戻ってくると今度はピアノを鳴らす「1回、2回・・・・・28回」と鍵盤を端から端まで順番に弾く。このピアノも最近、微妙な変化が見られる。28回までだった回数が38回までに増えた。剛さんの後に、私が「でたでた月が〜」と弾くと、ソファに座っていた剛さんが、振りむいて「おめの音たけ〜じゃ」と言って傍まできて「なんでこったに高い音でるの?」といって鍵盤を覗きこむ。「ぜんぶうるせな〜」と笑いながら剛さんも鍵盤を弾く「剛さんの音もたかいよ」と言うと「俺のはこったに高くね〜じゃ」と笑いながらソファに戻る。再び私がピアノを弾くとまた気になったようで「なんでおめそったに高くひけるんだ?」と一緒にピアノを鳴らし「強くおしてだからだな〜あははは」と言ってその場を去ったのだが、私がピアノから離れるとピアノに向かい剛さんは私の弾き方を真似していた。いつもの弾き方は、メロディはなく、鍵盤を端から端まで押さえたという感じだが、この時はメロディのように聞こえた。
 この日から私がピアノを弾いていると側にきて「おめが弾き終わるのを待ってる」と割り込んで弾くこともなくじっと見てくれている。
 日課をこなすのに大忙しで、周りが何を言っても待つことが苦手な剛さんが自分から「待ってる」と言ったので驚いた。お互いに上手ではないが、ピアノに気持ちをぶつけているのは同じで、その部分の共感があって待ってくれたのかもしれない。
 剛さんの日課にちょっと飛び込んで見ると、新しい一面が見える。昼寝の準備をしているスタッフに「ひいでらな〜ありがとう」と本当に嬉しそうな表情を見せ、感謝の言葉を何度もかけてくれる。日課を順番に行うことが大事だった人が、日課の中でスタッフや利用者との関わりをどんどんと求めてきている。送迎をしたスタッフの顔や服装を覚えてくれたり、順番を待つのが苦手だがスタッフの話に耳を傾けてくれたり、スタッフの動きをよくみている。どんどんと関わりを深め、剛さんの世界をもっと広げていきたい。
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おやつ作り ★デイサービス 小田島鮎美【2009年12月号】

 デイサービスでは、毎日3時のおやつをみんなで手作りしている。みんなで作るから、ある意味、完璧ではないものができたり、ハプニングが多々ある。
 クレープの日、サエさん(仮名)はボウルの中の生地を泡だて器でかき混ぜていた。あらかた出来上がり、スタッフが、道具を取りに行って帰ると(?)テーブルに置いてあった残りの牛乳が全部ボウルの中へ入れてしまって、ボウルはなみなみになっていた。「やられたー!」と笑うしかないスタッフをよそに、表情ひとつ変えずかき混ぜ続けるサエさん。それを見て周りのみんなも大笑い。結局、薄力粉を1kgも使い生地を調整。クレープの生地が大量だった。その後ハプニングを思い出しながら、みんなで大笑いでクレープをたべたのが、とってもおいしかった。ちなみに、翌日もおやつがクレープだったことはいうまでもない。
 レシピどおりにいかないこともしばしば。火加減の難しい焼き菓子は焦がしてしまったり、七夕の型抜のゼリーも、固まるはずのものが固まる気配もなかった。「失敗しちゃったかもしれない」とつぶやく私に、「失敗することもあるんだから!失敗しながら、だんだん美味しいものができてくる」とコウ子さん(仮名)は明るく励ましてくれた。失敗しても、みんなであーだこーだ言いながら、作ったものは笑っておいしく食べれるのが不思議だ。

 デイの利用が月に1回のナミさん(仮名)が来る日に限って、固いおやつができてしまい、「かでーっ!」と言われてしまったこともあった。でも、固いと怒りながらもお皿を見ると全部食べてくれて、味はよかったかな…?などと皿を見ると全部食べてくれて、味はよかったかな…?などと思っていると、トイレで思い出したように「かでがったー!」と怒っている。「ごめんね、ナミさん」と謝るが「かでくて、わねがったー!」とトイレが終わったあとも「わねがったー!」が続く。
 ガチガチに蒸しあがってしまった失敗のかまもちを前に、ナミさんと私がしょんぼりしていると、周りが盛り上げてくれてなんだか楽しい雰囲気になって救われたりする。たまにやったー!とにんまりするほどの、プリンケーキやわらかく焼きあがって納得できるときもある。ナミさんも、もくもくと食べている。「おいしい?ナミさん?」と期待いっぱいで聞いてみると、私の方を見もせず、一口かじったケーキのかけらを皿にペシッと投げつけてさらに、もぐもぐもぐ…。“美味しいんだ”と私はにやりと笑ってしまう。
 みんなで作り、みんなで食べるおやつは、特別においしい。いつか聞いたことのある話なのだが、美味しく食べる家族の顔を思い浮かべながら、“おいしくな〜れ”と想いをこめて作ると、美味しい料理ができるのだそうだ。私にはそのように想いを込める気持ちの余裕がないことが多いが、毎日できあがるおやつはやっぱり美味しい。それは、みんなの想いや笑いがいっぱい詰まっているからなのだと思う。
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ヨツ子さんの誕生日 ★グループホーム第1 西川光子【2009年12月号】

 11月16日はヨツ子さん(仮名)の94回目の誕生日。ヨツ子さんは普段和服ですごし、朝の身支度には大事なこだわりがあって1時間ほどかける。特にヘアスタイルは念入りで、髪のコンディションがどうあれ、いつも同じスタイルに決める技と心意気はすごい。
 誕生日は実家の料亭「枕流亭」に行くのがここ数年恒例で”今年も行けるといいなあ〜”と本人も私たちスタッフもこの日を楽しみにしていた。
 前日まで部屋で休む日が続いていただけに体調が気がかりだったが、当日になって「今日、枕流亭に行きたいけどどうかしら?」と声をかけると「あっそう、行ってみるっか!!」とさっそく深いブルーの大島つむぎに、総しぼりの羽織を迷わずタンスから取りだして、あっという間に身につけた。そのあまりの早さに私はア然とした。そのいでたちに思わずみんなも「あら〜ステキ〜!!」と笑顔で声をかけていた。
 料亭「枕流亭」に着き、車を降りると「あ〜ここ私の実家〜」と大きく息を吸う。その場の空気そのを感じているヨツ子さん・・・・。一緒に行った私達三人も大きく息を吸った。玄関に大きなちょうちんが下げてあり、太い字で「枕流亭」と書かれていた。その文字を誇らしげに「ちんりゅうてい」と大きな声で読み上げる。まるで「私来たわよ!!」と言っているようだ。
 中に入ると、店主さんがわざわざ料理の手を止めて来てくれて「来たっか、いま席いっぺだがらいい席空ぐまでカウンターで待ってけで」と特別席に案内してくれる。するとカウンターの横におみやげ用のお菓子があってヨツ子さんはそれに目が行く。実家のおみやげをみんなに振る舞いたいヨツ子さんは”あれも、これもぜ〜んぶ買って!!”とチャーミングにねだって 紙袋いっぱいに買い込んだ。なぜかきびダンゴが一番多かった。 席が空いて外の眺めのよい場所に案内され、お食事が運ばれてきた。ヨツ子さんは一番先に箸を取り出し、店の銘入りの箸袋を器に立てかけ対面している。 厚めの肉も「おいしい〜」と噛み切り、千切りキャベツ一本も残さず頂いた。目の前をゆるやかに流れる北上川の昔から変わることのない景色を堪能しながら「昔はね、この建物じゃなかったの。ここから奥は中庭があって、100帖の座敷が3つ続いていて・・・」と当時に引き込まれていくヨツ子さんだっだ。先ほどの箸袋は窓辺に置かれていた。私達はヨツ子さんの話にバックコーラスみたいに、「ふ〜ん、ふ〜ん」とうなずくのだった。
 そこに間合いよく店主さん来られて、さっき撮った写真を印刷して持ってきて下さった。思わぬ心づくしに胸が熱くなる。ヨツ子さんも驚きながら「あら〜今日のだえ、たんまげだ〜ありがっとや〜」とお礼を述べた。 その後再び店主さんがいらして「今から出がけなきゃないからゆっくりしてってや。これ息子が作ってくれだから」と誕生日のメッセージ入りで今日の写真を額に入れてプレゼントして下さった。メッセージを読み上げるヨツ子さん「94才お誕生日おめでとう・・」一旦止まって「あら私94才なの?86でなかったっけ・・・・」と首をかしげたが、「なんぼでもいい・・フフフ・・・」と流した。
 他のお客さんがみんな帰ったあとも、私達だけ残って実家を満喫した。さて帰ろうと立ち上がろうとしたが、長い時間浸っていたのですぐに立たてず四つんばいで歩くヨツ子さん。上品で品格のあるヨツ子さんらしからぬ姿に、笑いがおきて大騒ぎする我々だった。履き物を履きながら「勘定はおめはんやてけで〜」と言うヨツ子さんの前に、店主の息子さんはじめお店の方々全員が一列に並んでお見送りをしてくださった。
 94歳、今年も誕生日に実家に来ることができて良かった。暖かく迎えていただきゆったりとした時間を過ごしたありがたい一日だった。
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