2009年08月15日
今月の一句 ★グループホーム第1 鈴木美貴子【2009年8月号】
三色で 福しくなれる うちの中 二色の花も 三色にみる
手にとって 見る花二本 色三つ 見方変容 膨らむ自分
今年のグループホーム第2の畑はクミさん(仮名)の活躍と北舘さんのおかげで大豊作だ。畑からピーマン、ナス、大根を収穫してきたクミさんが「みてこれ」と差し出してくれる。「三色あれば家の中福しくなるって言ったったもんだ。」とニコニコ顔で話す。
次の日は、花壇からコスモスを二本を摘んできて「これ、みて」とニコニコ。「花っこ、これとこれ二色だよ。三色じゃないね」と私が言うと、「葉っぱっこも入れれば三色だ」と返す。「おお三色だ。クミさんすごい。」と私はしてやられた。
花は2色だけど、葉っぱも見たら三色で、見方によってはいろいろ見えるものなんだと思った。いろんな見方でいろいろなことを感じれる。見方は一つではないんだ。
手にとって 見る花二本 色三つ 見方変容 膨らむ自分
今年のグループホーム第2の畑はクミさん(仮名)の活躍と北舘さんのおかげで大豊作だ。畑からピーマン、ナス、大根を収穫してきたクミさんが「みてこれ」と差し出してくれる。「三色あれば家の中福しくなるって言ったったもんだ。」とニコニコ顔で話す。
次の日は、花壇からコスモスを二本を摘んできて「これ、みて」とニコニコ。「花っこ、これとこれ二色だよ。三色じゃないね」と私が言うと、「葉っぱっこも入れれば三色だ」と返す。「おお三色だ。クミさんすごい。」と私はしてやられた。
花は2色だけど、葉っぱも見たら三色で、見方によってはいろいろ見えるものなんだと思った。いろんな見方でいろいろなことを感じれる。見方は一つではないんだ。
グループホームみつさんちの新たな出発 ★ワークステージ 日向菜採【2009年8月号】
障がい者グループホーム「みつさんち第二」が5月にスタートして約2ヶ月が過ぎた。「みつさんち第一」の5名に加え、新しい入居者が5人増え、10人の利用者が暮らしている。
利用者の年齢層は20代から60代までと幅広く、そこにお母さん・お姉さん的存在の世話人さんが加わり、「大家族」のようになる。
夕飯時になるとみつさんち第二のリビングに集まり、お調子者の広一さん(仮名)が踊ってみせたり、それに対して「何やってんだよ!バカ野郎!」と中条くん(仮名)がツッコミをいれる。二人の年齢は30歳も離れているのに、その差を感じさせない関係はどこか微笑ましい。誰かがみんなを笑わせるなどして、夕食も盛り上がり、食事が済んでも自分の部屋にすぐには戻らず、リビングで過ごしている…。ここが人とのつながりを強く感じれる、安心できる家庭のような場所でありつづければいいと思う。
先月末、みつさんち利用者と、東和町の田瀬湖水上花火大会にでかけた。あいにく当日、天気予報は雨。中止になるかと思いきや花火が始まるまでは、なんとか天気は持ちこたえて花火大会は決行された。夜空から降ってくる花火を見て「わぁ〜!きれい・・・」と声があがる。「夏がきた」と憲武さん(仮名)とシートに寝そべって楽しんでいたに矢先に、夜空から花火ではなく大粒の雨が降ってきた・・・!たちまちどしゃ降りになり、みんなずぶ濡れになりながら人ごみをかき分け駐車場に引き返した。車に乗りひとまず落ちついて、お互いずぶ濡れになった姿を見て笑いが起こる。後部座席では広一さんが上半身裸になっている。「服濡れたから干そうと思ってよ」と恥ずかしそうに話す。たのしい花火大会が一転してずぶ濡れになってしまったが、誰一人文句を言わず、むしろそんなことも「散々だったね」といっしょに笑える。そんなみつさんちメンバーの雰囲気が、私は大好きで「いいな」と感じる。こうした雰囲気は、グループホームの生活が個々人ではなく、協力しながらいっしょに暮らしいるからこそできてくるのだと思う。
家族と離れ、障がいを軸に他者との共同生活をする場であるみつさんち。その支援員という役職をあずかっている私だが、利用者を管理するためのグループホームではなく、いろんな人たちと何かが「つながる」経験を大事にして、これからも関わっていきたい。
利用者の年齢層は20代から60代までと幅広く、そこにお母さん・お姉さん的存在の世話人さんが加わり、「大家族」のようになる。
夕飯時になるとみつさんち第二のリビングに集まり、お調子者の広一さん(仮名)が踊ってみせたり、それに対して「何やってんだよ!バカ野郎!」と中条くん(仮名)がツッコミをいれる。二人の年齢は30歳も離れているのに、その差を感じさせない関係はどこか微笑ましい。誰かがみんなを笑わせるなどして、夕食も盛り上がり、食事が済んでも自分の部屋にすぐには戻らず、リビングで過ごしている…。ここが人とのつながりを強く感じれる、安心できる家庭のような場所でありつづければいいと思う。
先月末、みつさんち利用者と、東和町の田瀬湖水上花火大会にでかけた。あいにく当日、天気予報は雨。中止になるかと思いきや花火が始まるまでは、なんとか天気は持ちこたえて花火大会は決行された。夜空から降ってくる花火を見て「わぁ〜!きれい・・・」と声があがる。「夏がきた」と憲武さん(仮名)とシートに寝そべって楽しんでいたに矢先に、夜空から花火ではなく大粒の雨が降ってきた・・・!たちまちどしゃ降りになり、みんなずぶ濡れになりながら人ごみをかき分け駐車場に引き返した。車に乗りひとまず落ちついて、お互いずぶ濡れになった姿を見て笑いが起こる。後部座席では広一さんが上半身裸になっている。「服濡れたから干そうと思ってよ」と恥ずかしそうに話す。たのしい花火大会が一転してずぶ濡れになってしまったが、誰一人文句を言わず、むしろそんなことも「散々だったね」といっしょに笑える。そんなみつさんちメンバーの雰囲気が、私は大好きで「いいな」と感じる。こうした雰囲気は、グループホームの生活が個々人ではなく、協力しながらいっしょに暮らしいるからこそできてくるのだと思う。
家族と離れ、障がいを軸に他者との共同生活をする場であるみつさんち。その支援員という役職をあずかっている私だが、利用者を管理するためのグループホームではなく、いろんな人たちと何かが「つながる」経験を大事にして、これからも関わっていきたい。
お中元商戦 2009を終えて ★事務・広報 米澤充【2009年8月号】
ワークステージ銀河の里の総菜部門では、今年は6月22日から注文受付開始し、一ヶ月半かけてお中元商戦をなんとか乗り越えることができました。昨年までの超豪華なギョウザから内容を変更し、シュウマイも加えてリーズナブルなギフトセットとなったのも影響してか、当初の目標300セットを大幅に上回って、計460セットを販売することができました。皆さん本当にありがとうございました。
前職でアパレルのインターネットショップ運営をしていた私は、今回は事務として(1)システム作り(注文受付から発送までの流れ)、 (2)広報・宣伝(パンフレット作成)、(3)お客様対応を担当しました。アパレル販売(仕入れ→販売)とは違って、食品の(製造→販売)は、製造スケジュールと在庫管理に悩まされました。
外見は同じでも中身の違う3種類の餃子を混在しないよう、1日1種の製造と決めていた事もあり、餃子と焼売がセットで組むまでに4日かかります。人の手で作られるためなかなか計画通りに製造できず、発送が遅れ、一部お客様にご迷惑をかけてしまいました。
しかも今年のお中元商戦の実働部隊は、私も含め3人が新入職員で昨年を上回る注文数を前に、てまどった場面も多々ありました。それを救ってくれたのが毎年お中元商戦を経験してきたワーカーさんたちでした。職員が製造スケジュールに頭を悩ませている中、「こんなの慣れてるよ」と言わんばかりにぎょうざレンジャーたちは餃子・焼売をもくもくと製造してくれます。作業終了の16時までに今日の目標が達成できないのではないかとおもわれた時も、15時を過るとみんなのペースが不思議と上がり、目標数を時間までに達成できた時には一緒になって喜びました。そうしたぎょうざレンジャーの勢いに職員も支えられながら、一緒に乗り切ったのでした。
どんな仕事も、お届けした商品がお客様に喜んでいただけるかどうかが大事で、その軸がずれないように心がけて行きたいと思います。今や通信販売は日常的であり、注文したら届くのは当たり前になっています。今後は商品が届いて箱を開けた後に、何かしら想像以上の感動やサプライズが与えられるような商品販売を考えていきたいです。
お歳暮商戦2009に続く…
前職でアパレルのインターネットショップ運営をしていた私は、今回は事務として(1)システム作り(注文受付から発送までの流れ)、 (2)広報・宣伝(パンフレット作成)、(3)お客様対応を担当しました。アパレル販売(仕入れ→販売)とは違って、食品の(製造→販売)は、製造スケジュールと在庫管理に悩まされました。
外見は同じでも中身の違う3種類の餃子を混在しないよう、1日1種の製造と決めていた事もあり、餃子と焼売がセットで組むまでに4日かかります。人の手で作られるためなかなか計画通りに製造できず、発送が遅れ、一部お客様にご迷惑をかけてしまいました。
しかも今年のお中元商戦の実働部隊は、私も含め3人が新入職員で昨年を上回る注文数を前に、てまどった場面も多々ありました。それを救ってくれたのが毎年お中元商戦を経験してきたワーカーさんたちでした。職員が製造スケジュールに頭を悩ませている中、「こんなの慣れてるよ」と言わんばかりにぎょうざレンジャーたちは餃子・焼売をもくもくと製造してくれます。作業終了の16時までに今日の目標が達成できないのではないかとおもわれた時も、15時を過るとみんなのペースが不思議と上がり、目標数を時間までに達成できた時には一緒になって喜びました。そうしたぎょうざレンジャーの勢いに職員も支えられながら、一緒に乗り切ったのでした。
どんな仕事も、お届けした商品がお客様に喜んでいただけるかどうかが大事で、その軸がずれないように心がけて行きたいと思います。今や通信販売は日常的であり、注文したら届くのは当たり前になっています。今後は商品が届いて箱を開けた後に、何かしら想像以上の感動やサプライズが与えられるような商品販売を考えていきたいです。
お歳暮商戦2009に続く…
新人ケアマネ奮闘記 ★居宅ケアマネージャー 板垣由紀子【2009年8月号】
寝たきり寸前、ぎりぎりの攻防 その3
ある日、私が「ショートステイ北斗」に行くと玄関で一服している康さん(仮名)がいて、唐突に語りかけられた。「あのさ、俺、旅してこようかと思って、新幹線で、東京まで行って、一泊して、戻ってこようかと思って。」
何?東京まで連れてけってことじゃないよね?といぶかしがって私は聞き返す。「誰かと一緒にいくの?」「1人で、ここからタクシーに乗ってさ、新幹線で東京までいって、一泊して、次の日の夕方には戻れるでしょ。」
「?戻るって?」:「ここに」
「何しに行くの?」:「試してみたいんだよね。」
「今?お金は?」:「いつかさあ〜」
私はあまりの突然の話に驚き、現実で問いただしていた。
事務所でスタッフにその内容を伝える。「ひとり旅ですか。東京か。ここは帰ってくるところになっているんだ。」「新幹線に乗れるかな?どこに泊まるんだろう?」「自分を試してみたいか。」と一同で驚いた。
数日後、「デイサービスにピアノ弾きに行くから。」と私の携帯に電話が入る。デイホールで昼食前までピアノを弾いてすごす。帰りは車いすではなく杖を使ってしっかり歩いている。2週間前「このままでは寝たきりになってしまう。」と危機を感じた姿とは全く違う、蘇った人がそこにいた。
「旅に出る。」「試してみたいんだ。」の言葉に私は思いをめぐらす。旅はプロのピアニストとしてやってきた彼の生き方そのものではないのか。施設での暮らしは環境的には、快適でいたれりつくせりだが、本人の望んでいるイメージは、自由な流浪の旅人(?)として、誰からも干渉されずにわがままな1人旅の途上にいたいのかもしれない。
立ち上がるどころか、寝返りも打てず、寝たきりに近い状態から、ショートステイに入って2週間、今やしゃんしゃんと歩き、デイにピアノを弾きに出かける姿を見ながら、「やりたいように生きたらいいんだ、がんばって」と応援したくなった。
そしてショートステイの期限も近づいてきた。市役所に平屋の件を再度問い合わせると、洋式の水洗トイレに改装した住居に入れるとのことだった。早速、生活保護課、建設課の担当と下見に出かける。その後再度、本人と見学して入居が決まった。引っ越しの見積もりを取り、必要な手続きを代行する。引っ越しには、彼の友人が一緒に立ち会ってくれることになった。一人暮らしに戻るに当たって、本人を支えるつながりもあって安心した。引っ越しの挨拶まわりをしていたら、近所の方が、「何かあったらいつでも声かけて、鍵は開けといて、時々覗きに行くから。何でも食べれるの?」と、声をかけてくれた。昔ながらの長屋の感覚のある地域でよかった。
現在、彼は、新居で一人暮らしを再開し、杖なしで歩き「ピアノを弾く」という名目で、デイサービス、ショートステイにピアニストらしいおしゃれをして通って来ている。
ある日、私が「ショートステイ北斗」に行くと玄関で一服している康さん(仮名)がいて、唐突に語りかけられた。「あのさ、俺、旅してこようかと思って、新幹線で、東京まで行って、一泊して、戻ってこようかと思って。」
何?東京まで連れてけってことじゃないよね?といぶかしがって私は聞き返す。「誰かと一緒にいくの?」「1人で、ここからタクシーに乗ってさ、新幹線で東京までいって、一泊して、次の日の夕方には戻れるでしょ。」
「?戻るって?」:「ここに」
「何しに行くの?」:「試してみたいんだよね。」
「今?お金は?」:「いつかさあ〜」
私はあまりの突然の話に驚き、現実で問いただしていた。
事務所でスタッフにその内容を伝える。「ひとり旅ですか。東京か。ここは帰ってくるところになっているんだ。」「新幹線に乗れるかな?どこに泊まるんだろう?」「自分を試してみたいか。」と一同で驚いた。
数日後、「デイサービスにピアノ弾きに行くから。」と私の携帯に電話が入る。デイホールで昼食前までピアノを弾いてすごす。帰りは車いすではなく杖を使ってしっかり歩いている。2週間前「このままでは寝たきりになってしまう。」と危機を感じた姿とは全く違う、蘇った人がそこにいた。
「旅に出る。」「試してみたいんだ。」の言葉に私は思いをめぐらす。旅はプロのピアニストとしてやってきた彼の生き方そのものではないのか。施設での暮らしは環境的には、快適でいたれりつくせりだが、本人の望んでいるイメージは、自由な流浪の旅人(?)として、誰からも干渉されずにわがままな1人旅の途上にいたいのかもしれない。
立ち上がるどころか、寝返りも打てず、寝たきりに近い状態から、ショートステイに入って2週間、今やしゃんしゃんと歩き、デイにピアノを弾きに出かける姿を見ながら、「やりたいように生きたらいいんだ、がんばって」と応援したくなった。
そしてショートステイの期限も近づいてきた。市役所に平屋の件を再度問い合わせると、洋式の水洗トイレに改装した住居に入れるとのことだった。早速、生活保護課、建設課の担当と下見に出かける。その後再度、本人と見学して入居が決まった。引っ越しの見積もりを取り、必要な手続きを代行する。引っ越しには、彼の友人が一緒に立ち会ってくれることになった。一人暮らしに戻るに当たって、本人を支えるつながりもあって安心した。引っ越しの挨拶まわりをしていたら、近所の方が、「何かあったらいつでも声かけて、鍵は開けといて、時々覗きに行くから。何でも食べれるの?」と、声をかけてくれた。昔ながらの長屋の感覚のある地域でよかった。
現在、彼は、新居で一人暮らしを再開し、杖なしで歩き「ピアノを弾く」という名目で、デイサービス、ショートステイにピアニストらしいおしゃれをして通って来ている。
“楽しかった”ちらし寿司作り ★特養ユニット「こと」 近藤真代【2009年8月号】
先日、骨折で入院していたユニット「オリオン」のユリ子さん(仮名)が2週間ぶりに退院してきたので、ちらし寿司をつくってお祝いをした。隣のユニット…「こと」も入れてオリオン・こと合同で行った。
ご飯が炊き上がると、リビングに利用者さんたちが集まり、澤田くんを中心にちらし寿司作りが始まった。エリさん(仮名)がうちわで扇ぐ係りになり、みんなが見守るなか酢飯ができていく・・・ユリ子さんに「味見」をしてもらうと「おいしい」と笑顔でこたえてくれる。
続いて卵や海老を飾り付け、エリさんも里恵さん(仮名)も上手にスプーンと箸を使って、飾り付けをしていく。最初は断っていた歩さん(仮名)も綺麗に飾り付けてくれた。
12時にはちらし寿司ができあがって並び、厨房のスタッフも加わって一緒にオリオンで昼食を食べた。普段はなかなか箸が進まない利用者さんたちがおかわりしながら食べていたのには驚いた。それだけでなく利用者さん同士で分け合ったり、職員に勧めたり・・・いつの間にか交流が生まれている。普段では見られない雰囲気が生まれ、みんなが笑いながら食べた昼食だった。
暫くしてから、私が里恵さんの居室で介助をしていると「何か楽しいことないかなぁ…あの時は楽しかったよね」と話しかけてくれる。「・・・ちらし寿司作ったときのこと?」と聞くと「そう。楽しかったね」と里恵さんは答える。
ベッドで横になっていることが多い里恵さんにとって“食べる”ことは楽しみの一つだとよく聞いていたが、あの雰囲気を心地よく感じていてくれたのだ。里恵さんの「楽しかった」の一言でまた何かしたい!と思った。次はどんな事をしていこうか考えている・・・
ご飯が炊き上がると、リビングに利用者さんたちが集まり、澤田くんを中心にちらし寿司作りが始まった。エリさん(仮名)がうちわで扇ぐ係りになり、みんなが見守るなか酢飯ができていく・・・ユリ子さんに「味見」をしてもらうと「おいしい」と笑顔でこたえてくれる。
続いて卵や海老を飾り付け、エリさんも里恵さん(仮名)も上手にスプーンと箸を使って、飾り付けをしていく。最初は断っていた歩さん(仮名)も綺麗に飾り付けてくれた。
12時にはちらし寿司ができあがって並び、厨房のスタッフも加わって一緒にオリオンで昼食を食べた。普段はなかなか箸が進まない利用者さんたちがおかわりしながら食べていたのには驚いた。それだけでなく利用者さん同士で分け合ったり、職員に勧めたり・・・いつの間にか交流が生まれている。普段では見られない雰囲気が生まれ、みんなが笑いながら食べた昼食だった。
暫くしてから、私が里恵さんの居室で介助をしていると「何か楽しいことないかなぁ…あの時は楽しかったよね」と話しかけてくれる。「・・・ちらし寿司作ったときのこと?」と聞くと「そう。楽しかったね」と里恵さんは答える。
ベッドで横になっていることが多い里恵さんにとって“食べる”ことは楽しみの一つだとよく聞いていたが、あの雰囲気を心地よく感じていてくれたのだ。里恵さんの「楽しかった」の一言でまた何かしたい!と思った。次はどんな事をしていこうか考えている・・・
初めての成功!近づく存在! ★グループホーム第1 村上ほなみ【2009年8月号】
ミヤさん(仮名)を入浴に誘うのにいつも失敗をしている。“よし!今日こそは!”と自分に気合を入れ、いつものようにミヤさんの隣に座る。ミヤさんは、この日も孫を心配し、探していた。“いつも「孫と入るから」って断られるので、今日は私が孫になって一緒に入るって言ったらどうなる?”と思った。今日はそれで挑戦してみようと思った。
朝からできるだけミヤさんの傍から離れずに居ようと決め、ミヤさんに私の“存在”を感じてもらうようにする。蒸し暑いのもなんのその和室の布団に抱き合って横になる。ミヤさんは、私のお腹をたたきながらリズムを刻み、しっかりと私の存在を感じていてくれているようだった。急に「オラの家さも泊りさ来〜」と頭を近づけてくるミヤさん。「いいの?」と返すと「いいよ〜。いとこ同士だもの、いいんだ〜!」と言って笑う 。
ミヤさんは私の祖母にどことなく似た雰囲気を持っていて、私からはミヤさんは近い存だが、ミヤさんの方は簡単には受け入れてくれないだろうと思っていたので、ここで急に接近できたような気がしてうれしかった。“この調子で夕方のお風呂の時間まで・・・”とドキドキしながら過ごした。おやつが終わると入浴の時間、他の人の入浴中も、なるべくミヤさんの隣にいるようにした。どう誘えばいいのか。大きい声?小さい声?子供のように話せばいいの?とそんなことを考えているうちにミヤさんの番になり、緊張しながらも“今日は引かない”と気合を入れ直す。 私はソファーにいるミヤさんの隣に黙って座った。しばらくしてミヤさんの方から「おばあちゃん呼ばってだ。ミッコ、ミッコってよ〜。」と声を掛けてきてくれた。そこで私は孫になりきり、「ミッコばあちゃんと一緒に湯さ入れって言ってたのだ〜。おばあちゃんはY子さん(娘さん)と2人でもっと広い風呂に行ったっけよ。ミッコばあちゃんと私はここで入るんだ〜」と言ってみた。「んで入ってもいいんだな。おめぇも一緒だべ?他のわらしばY子見るんだ。」とミヤさんの中で私がワラシになった。他のワラシはY子さんに託し、私と手を繋いで脱衣所に向かう。いつもなら脱衣所に着いた途端気持ちが変わるが、この日はすんなり入浴。「気持ちいよ〜。早く来〜。」と嬉しいことに誘ってくれている。
これまでミヤさんの入浴ではうまくいかず悩んできたが、この日の入浴は、なんだか心のモヤモヤが一気に晴れたような気がした。私を楽しませてくれたり、悩ませてくれたり・・やっぱり、ミッコばあちゃんの存在は大きい・・・!!次に起こる出来事にワクワクしながら、また明日も隣でゆっくり過ごせたらいいなぁ☆
朝からできるだけミヤさんの傍から離れずに居ようと決め、ミヤさんに私の“存在”を感じてもらうようにする。蒸し暑いのもなんのその和室の布団に抱き合って横になる。ミヤさんは、私のお腹をたたきながらリズムを刻み、しっかりと私の存在を感じていてくれているようだった。急に「オラの家さも泊りさ来〜」と頭を近づけてくるミヤさん。「いいの?」と返すと「いいよ〜。いとこ同士だもの、いいんだ〜!」と言って笑う 。
ミヤさんは私の祖母にどことなく似た雰囲気を持っていて、私からはミヤさんは近い存だが、ミヤさんの方は簡単には受け入れてくれないだろうと思っていたので、ここで急に接近できたような気がしてうれしかった。“この調子で夕方のお風呂の時間まで・・・”とドキドキしながら過ごした。おやつが終わると入浴の時間、他の人の入浴中も、なるべくミヤさんの隣にいるようにした。どう誘えばいいのか。大きい声?小さい声?子供のように話せばいいの?とそんなことを考えているうちにミヤさんの番になり、緊張しながらも“今日は引かない”と気合を入れ直す。 私はソファーにいるミヤさんの隣に黙って座った。しばらくしてミヤさんの方から「おばあちゃん呼ばってだ。ミッコ、ミッコってよ〜。」と声を掛けてきてくれた。そこで私は孫になりきり、「ミッコばあちゃんと一緒に湯さ入れって言ってたのだ〜。おばあちゃんはY子さん(娘さん)と2人でもっと広い風呂に行ったっけよ。ミッコばあちゃんと私はここで入るんだ〜」と言ってみた。「んで入ってもいいんだな。おめぇも一緒だべ?他のわらしばY子見るんだ。」とミヤさんの中で私がワラシになった。他のワラシはY子さんに託し、私と手を繋いで脱衣所に向かう。いつもなら脱衣所に着いた途端気持ちが変わるが、この日はすんなり入浴。「気持ちいよ〜。早く来〜。」と嬉しいことに誘ってくれている。
これまでミヤさんの入浴ではうまくいかず悩んできたが、この日の入浴は、なんだか心のモヤモヤが一気に晴れたような気がした。私を楽しませてくれたり、悩ませてくれたり・・やっぱり、ミッコばあちゃんの存在は大きい・・・!!次に起こる出来事にワクワクしながら、また明日も隣でゆっくり過ごせたらいいなぁ☆
銀河の車窓から ★デイサービス 小田島鮎美【2009年8月号】
車の中でもデイのホールでも歌を歌って過ごしているケイさん(仮名)。彼女にはいろんな歌の楽しみ方がある。ケイさんオリジナルの間奏が入ったり、間奏の間に別の曲の前奏になっていたりすることがある。手拍子や、時には足も動かしてダンダンと力強く、タンタンと軽快にリズムを刻む。歩きながら、リズムを感じていることもある。「もしもしかめよ〜」「とんとんとんからりっと、となりぐみ〜」「も〜もたろさん〜」ひそひそ、静かに歌うこともあれば、晴れた日のようにカラッと歌い上げることもある。声の感じ、リズムの刻み方、表情などで、ケイさんのその時の気分が伝わってくるので、おもしろい。私が知らない曲もあり、ケイさんの秘蔵曲はたくさんあると私はみている。
ある日の朝の送迎で、ケイさん他2人を乗せ銀河に向かっている折、ちょっとした事件が起こった。マイペースに歌を歌っていたケイさんに、家族とけんかしてピリピリした気分のまま車に乗ったサエさん(仮名)が「それは昔の歌です!」とイライラをぶつける。マイペースに歌い続けていたケイさんだが、そのうち「そったなこと聞きだくね!」「ばか、ばか、ばか!」と言いながら、足でも“ダンダンダン”と、車の床を力強く蹴り怒った。見るとルームミラーにケイさんの険しい表情が映っている。
これではデイに到着してもしばらく車から降りられないかも…。そう思っていたら案の定、車から降りる気配はまったくなく、「ケイさん、デイに着いたよ。降りよう」と声をかけてみるが、プイッとそっぽを向く。あれ?私にも怒っている!?どうやら、私のことも受け入れてはくれないらしい。「落ちるよ!」と隣に座っていたミチさん(仮名)も声をかけるが、“知らね!”と言わんばかりの表情で一瞥。これは長期戦になりそうだ、覚悟を決めて、ケイさんと距離をとり様子を見守ることにした。
はじめは、歌も歌わず、じっと前を見つめていたり、デイへ来る他の利用者さんの様子を見ていたが、だんだんに自分のペースで歌を歌い始める。でも、「降りて一緒に行かない?」と声をかけても私の方を向いたり言葉に反応することはなく、表情は硬かった。無理に誘ったりするより、今のケイさんに溶け込んでみれば受け入れてもらえるかなぁ?そう思い、車のドアを開け、傍にしゃがんでケイさんの歌を聞いたり、一緒に手拍子をして過ごしていた。すると、しばらくして、ケイさんが私の目を見てくれるようになった。「あれあれ。」と何かを見て指差している。ん?何を見ているんだろう?指差す方を見ながらしばらく待ってみる。下から伸びた、朝顔の蔓だった。お互いうなずきながら、沈黙の時間がながれる。そのうちに、「隣に座ってんじゃい」と、席をつめて車内に招き入れてくれた。あれ?ケイさんの世界のなかに入れてもらえたのかな?!ちょっとうれしい気持ちになる。
これなら話を聞いてくれて、デイのホールにも入れるかもしれないと、声をかけてみる。すると、目の前に見えるグループホーム第2を指差しながら「あんた行ってきて。みんな待ってるから。」と、わたしのことはいいから、行ってきなさいというニュアンスで話す。そして「えんえんえん」と身をかがめて泣きだして「みんな待っているから(行ってきて)。私は歳とったから、いらないの。」と思いがけない一言。
そんなふうに感じていたんだ。そういう言葉は一度も聞いたことがなかったけれど、胸の奥深く、感じていたことなのだろうかと、しんみりしてしまった。なんて言っていいのか分からなかったが「私は一緒にいたいよ。」と伝えた。そのうち、気持ちがひと段落したところ、もう一度デイの方に誘ってみた。すると今度は「オレ歩いていけね。」「足痛いから。」と話し、どうやら坂の上にある、グループホーム第2をデイサービスと思っていたようだった。「あそこまで行かなくていいんだよ。すぐ後ろに玄関があるよ。」何度も話してみるが、やはり目の前に見える第2の建物に意識がいくようだ。
そこで…車の向きを変えてみた。デイの玄関が見えるように駐車すれば、もしかしたら…。「ケイさん、歩いてすぐだから一緒に行ってみよう。」と車のドアを開けると、「いがったいがった〜」と手をあわせ、車を降り、ゆっくり歩き出した。おぉっ!驚くと同時に、うれしくなって「いがった〜」と手をつないで玄関に向かった。
私も同じ景色を見ているんだけど、必ずしも同じように見えているわけではなく、違うイメージの世界が広がってるんだなと感じた。何が見えているか、どう感じているのか、じっくり話を聞いたり一緒に居ることで分かることがあるんだと感じた。利用者さんの世界にいれてもらえるかは分からないし、その世界に受け入れてもらっても分からないことがあるかもしれないけれど、こちらの都合はちょっと置いておいて、利用者さんの話をていねいに聴くことを大事にしたいなと思った。そこから利用者さんの世界も私の世界も広がっていくような気がする。
ある日の朝の送迎で、ケイさん他2人を乗せ銀河に向かっている折、ちょっとした事件が起こった。マイペースに歌を歌っていたケイさんに、家族とけんかしてピリピリした気分のまま車に乗ったサエさん(仮名)が「それは昔の歌です!」とイライラをぶつける。マイペースに歌い続けていたケイさんだが、そのうち「そったなこと聞きだくね!」「ばか、ばか、ばか!」と言いながら、足でも“ダンダンダン”と、車の床を力強く蹴り怒った。見るとルームミラーにケイさんの険しい表情が映っている。
これではデイに到着してもしばらく車から降りられないかも…。そう思っていたら案の定、車から降りる気配はまったくなく、「ケイさん、デイに着いたよ。降りよう」と声をかけてみるが、プイッとそっぽを向く。あれ?私にも怒っている!?どうやら、私のことも受け入れてはくれないらしい。「落ちるよ!」と隣に座っていたミチさん(仮名)も声をかけるが、“知らね!”と言わんばかりの表情で一瞥。これは長期戦になりそうだ、覚悟を決めて、ケイさんと距離をとり様子を見守ることにした。
はじめは、歌も歌わず、じっと前を見つめていたり、デイへ来る他の利用者さんの様子を見ていたが、だんだんに自分のペースで歌を歌い始める。でも、「降りて一緒に行かない?」と声をかけても私の方を向いたり言葉に反応することはなく、表情は硬かった。無理に誘ったりするより、今のケイさんに溶け込んでみれば受け入れてもらえるかなぁ?そう思い、車のドアを開け、傍にしゃがんでケイさんの歌を聞いたり、一緒に手拍子をして過ごしていた。すると、しばらくして、ケイさんが私の目を見てくれるようになった。「あれあれ。」と何かを見て指差している。ん?何を見ているんだろう?指差す方を見ながらしばらく待ってみる。下から伸びた、朝顔の蔓だった。お互いうなずきながら、沈黙の時間がながれる。そのうちに、「隣に座ってんじゃい」と、席をつめて車内に招き入れてくれた。あれ?ケイさんの世界のなかに入れてもらえたのかな?!ちょっとうれしい気持ちになる。
これなら話を聞いてくれて、デイのホールにも入れるかもしれないと、声をかけてみる。すると、目の前に見えるグループホーム第2を指差しながら「あんた行ってきて。みんな待ってるから。」と、わたしのことはいいから、行ってきなさいというニュアンスで話す。そして「えんえんえん」と身をかがめて泣きだして「みんな待っているから(行ってきて)。私は歳とったから、いらないの。」と思いがけない一言。
そんなふうに感じていたんだ。そういう言葉は一度も聞いたことがなかったけれど、胸の奥深く、感じていたことなのだろうかと、しんみりしてしまった。なんて言っていいのか分からなかったが「私は一緒にいたいよ。」と伝えた。そのうち、気持ちがひと段落したところ、もう一度デイの方に誘ってみた。すると今度は「オレ歩いていけね。」「足痛いから。」と話し、どうやら坂の上にある、グループホーム第2をデイサービスと思っていたようだった。「あそこまで行かなくていいんだよ。すぐ後ろに玄関があるよ。」何度も話してみるが、やはり目の前に見える第2の建物に意識がいくようだ。
そこで…車の向きを変えてみた。デイの玄関が見えるように駐車すれば、もしかしたら…。「ケイさん、歩いてすぐだから一緒に行ってみよう。」と車のドアを開けると、「いがったいがった〜」と手をあわせ、車を降り、ゆっくり歩き出した。おぉっ!驚くと同時に、うれしくなって「いがった〜」と手をつないで玄関に向かった。
私も同じ景色を見ているんだけど、必ずしも同じように見えているわけではなく、違うイメージの世界が広がってるんだなと感じた。何が見えているか、どう感じているのか、じっくり話を聞いたり一緒に居ることで分かることがあるんだと感じた。利用者さんの世界にいれてもらえるかは分からないし、その世界に受け入れてもらっても分からないことがあるかもしれないけれど、こちらの都合はちょっと置いておいて、利用者さんの話をていねいに聴くことを大事にしたいなと思った。そこから利用者さんの世界も私の世界も広がっていくような気がする。
シソ畑に見る断章−新たな出会い ★グループホーム第1 西川光子【2009年8月号】
7月から新しくグループホームに入居された歩さん(仮名)は畑仕事が大好きな方だ。これまで何度か一緒に畑の草取りをした。その都度、「あいや〜 このシソ ずいぶん いぐなったごど〜。チジミッコで色もとってもきれいだね。使うんだば、好きなくれ取ってっていいよ。キュウリもピーマンもそごらにあるがら、いずでもいいがら持ってってや。いがったらばだよ。」と言ってくれる。
毎回草取りを手伝ってもらったお礼に実ったものを「いがったらば」持っててやと言うその心配りに感動する。歩さんにとっては、畑仕事は収穫したものを人にあげて喜ばれるためにやる作業に違いない。だからかもしれない「持ってってや」というときのその屈託のない笑顔は何ともいえない深みがある。
”いがったらばだよ”と負担にさせない心づかいも絶妙で心打たれる。こういう言葉づかいと心配りが身についた振る舞いが我々にできるだろうか。若い人たちにそれを伝えていけるだろうかとつい考えてしまう。
歩さんと草取りを一緒にしながら、今年の梅漬けの時はこのシソを“一緒に収穫しよう”と私はその日を待ちわびていた。塩で下づけした梅がちょうど良い具合になったので、デイサービス、グループホーム、ワークステージと集まって梅漬け作業をすることになり、その前日の夕方シソを刈り取ることに決めた。「さあ〜今日はシソの葉とりですよ。お願いします。」と歩さんに声をかける。「いいよいいよ。みんな取るのっか。行ぐ時教えてけでや。」と歩さんも楽しみにしてくれている。 ところが午後になると雨が勢いよく降りはじめた。ショック!! 夕方まで止みそうにないと思われるほどの激しい雨になった。
”午前のうちに取っていればよかった。”と残念やら悔しいやら、やるせない思いでいっぱいになったが、自然が相手ではどうしようもない。”仕方ない。明日の朝一番に賭けよう”と開き直った。ところが、そのうち、なんとうその様に雨が止んだ。”さあ〜今だ。早く行って刈って来よう”と大急ぎで長靴、ハサミ、ビニール袋を用意し、二人で畑に出た。ところが雨の後なので「あや〜葉っぱで濡れるんだよ。おめはんズボン汚さねっか。シソの色っこつげばとれねんだよ」と歩さんは私のことを心配してくれる。そこでビニール袋をズボンの上にはいてみた。なんともこっけいな格好だったが「あや〜いんだ いんだ フフ・・・」と笑って言ってくれる。そのフフフは「確かに変だけどいいんだ」というやさしい含みを感じた。
また雨が降り出す前にと、急ぎで大袋2つほど、シソの葉を刈り上げた。幸い雨も降らず、刈り終えて二人でほっと顔を見合わせた。
「や〜やよがったね。あどは種っこに残しておぐっか。」と作業を終え、シソを抱えて洗い場の屋根の下に着いたとたんに、雨がザーと音をたてて降り出したのだった。なんとかセーフ。
シソを洗いながら思い出した。この春、まだデイサービスに通っていた歩さんと、小さい、シソの苗を一緒に植えたのだった。「この位離して植えればいいっか。みんなでやるどおもしれね。」と語っていたその時の歩さんを思い出す。その時はグループで一緒に生活するようになるなど思いもよらなかったのだが・・・。
私たちの「夏の晴れ間のシソ取り」だったが、その出会いはすでに春に芽ばえていたんだなあと感慨深かった。
毎回草取りを手伝ってもらったお礼に実ったものを「いがったらば」持っててやと言うその心配りに感動する。歩さんにとっては、畑仕事は収穫したものを人にあげて喜ばれるためにやる作業に違いない。だからかもしれない「持ってってや」というときのその屈託のない笑顔は何ともいえない深みがある。
”いがったらばだよ”と負担にさせない心づかいも絶妙で心打たれる。こういう言葉づかいと心配りが身についた振る舞いが我々にできるだろうか。若い人たちにそれを伝えていけるだろうかとつい考えてしまう。
歩さんと草取りを一緒にしながら、今年の梅漬けの時はこのシソを“一緒に収穫しよう”と私はその日を待ちわびていた。塩で下づけした梅がちょうど良い具合になったので、デイサービス、グループホーム、ワークステージと集まって梅漬け作業をすることになり、その前日の夕方シソを刈り取ることに決めた。「さあ〜今日はシソの葉とりですよ。お願いします。」と歩さんに声をかける。「いいよいいよ。みんな取るのっか。行ぐ時教えてけでや。」と歩さんも楽しみにしてくれている。 ところが午後になると雨が勢いよく降りはじめた。ショック!! 夕方まで止みそうにないと思われるほどの激しい雨になった。
”午前のうちに取っていればよかった。”と残念やら悔しいやら、やるせない思いでいっぱいになったが、自然が相手ではどうしようもない。”仕方ない。明日の朝一番に賭けよう”と開き直った。ところが、そのうち、なんとうその様に雨が止んだ。”さあ〜今だ。早く行って刈って来よう”と大急ぎで長靴、ハサミ、ビニール袋を用意し、二人で畑に出た。ところが雨の後なので「あや〜葉っぱで濡れるんだよ。おめはんズボン汚さねっか。シソの色っこつげばとれねんだよ」と歩さんは私のことを心配してくれる。そこでビニール袋をズボンの上にはいてみた。なんともこっけいな格好だったが「あや〜いんだ いんだ フフ・・・」と笑って言ってくれる。そのフフフは「確かに変だけどいいんだ」というやさしい含みを感じた。
また雨が降り出す前にと、急ぎで大袋2つほど、シソの葉を刈り上げた。幸い雨も降らず、刈り終えて二人でほっと顔を見合わせた。
「や〜やよがったね。あどは種っこに残しておぐっか。」と作業を終え、シソを抱えて洗い場の屋根の下に着いたとたんに、雨がザーと音をたてて降り出したのだった。なんとかセーフ。
シソを洗いながら思い出した。この春、まだデイサービスに通っていた歩さんと、小さい、シソの苗を一緒に植えたのだった。「この位離して植えればいいっか。みんなでやるどおもしれね。」と語っていたその時の歩さんを思い出す。その時はグループで一緒に生活するようになるなど思いもよらなかったのだが・・・。
私たちの「夏の晴れ間のシソ取り」だったが、その出会いはすでに春に芽ばえていたんだなあと感慨深かった。