社会はますますシステム化されていく。ゲド戦記の訳者清水真砂子は、がんばっても報われる事のない社会、厳しく進む相互監視社会にあって、人間への信頼や希望をどうやって手放さずに生きていけるのかと問いかけ、子どもの本の中の知恵にその活路を求めている。(『そしてねずみ女房は星を見た』・テンブックス) 「暮らし」はまさに知恵そのものである。その知恵は、頭でっかちな知識とはかなり違う、体も心も動員した知恵がある。中沢新一は現代におけるリアルを考えながら、「自然の背後にある見えない力が作り出す、具体的なものの価値を守り育てる姿勢が農業にある」と指摘する。その具体化してくる価値を「繊細に行き届いた心遣いを持って見守り、しかも抽象化、情報化しないでどこまでも具体性に固着するのが農の哲学だ」という。(『リアルであること』:幻冬舎文庫)里では、暮らしのなかで、個々の生きるリアリティを賦活したい。
「暮らし」は、掃除や片付け、食事から道具の整備や、介護や看取りまで、生きる事と直結している。それらはシステムからは排除され、低く見られ、蔑まれる傾向にあり、現代人はそういうことに関わらないことがエラクてリコウなのだと勘違いし、生きる実感と知恵を失っている。システム化の波は致し方ないこととしても、個々人はそれに飲み込まれず、暮らしを大切にすることで、便利で簡単な生き方から脱却し、リアルな人生の可能性を開けないものか。今年もみんなで泥まみれになりながら農業に関わり、暮らしを作っていきたい。